えちえち体験談

家庭教師の女子大生が恋をした..

2014/12/04 12:26カテゴリ : 教師との体験談

大学近くのカフェで、千佳は目の前にあるカプチーノの泡をクルクルとスプーンで回しながら困惑した表情を浮かべていた。
尚子 「ねっ!お願い!千佳しか頼める人いないのよ。」
千佳 「でもぉ……家庭教師なんて私……。」
尚子 「大丈夫よ、千佳は人に勉強教えるの得意でしょ。ほら、前に私に教えてくれた時、凄く分かり易かったし。」
千佳 「ん〜……でもなぁ……」
千佳に頭を下げて何かを頼み込んでいるのは、大学入学当初からの友人である尚子だ。

尚子は個人で家庭教師のアルバイトをしており、今現在も複数の学生を受け持っている。

ところが最近恋人ができた尚子は、スケジュールに詰め過ぎていた家庭教師のアルバイトを減らしたいと言うのだ。

それはそうだ。
相手は尚子にとっては人生で初めてできた恋人であり、社会人になる前の年であるこの1年は、なるべく好きな彼氏との時間を大切にしたいと思っているのだろう。

初々しいカップル。今が一番ラブラブな時期だ。

そしてその事情は、親友と言ってもいい程仲が良い千佳も重々承知している。

彼氏ができてからの尚子と言ったら、毎日ニコニコ笑顔で機嫌が良く、見ているだけでこちらまで微笑ましい気持ちになるくらいなのだから。

前々から尚子の恋愛を応援してきた千佳にとってもそれは嬉しい事なのだ。

それで今回、少し前に契約したばかりの1人の生徒を代わりに受け持って欲しいと尚子が千佳に頼み込んできたと言う訳なのだが……。
尚子 「それにここの家、結構お給料良いわよ。ほら千佳、アルバイト探してるんでしょ、ここならそこら辺の学生向けアルバイトと比べれると随分と待遇良いし。」
千佳 「う〜ん……そうだけど……。」
確かに千佳はアルバイトを探していた。

就職先も決まり、これから遊びや旅行に行くには、そのための資金を貯める必要があったからだ。

アルバイトもしたいし、やりたい事も沢山ある。だからなるべく時給の良いアルバイトを探したいと思っていた。
そんな時に舞い込んできた今回の話。

尚子が持ってきた書類に目を通すと、確かに待遇は凄く良い。
家庭教師の仕事がこんなにも待遇が良いなんて知らなかったと、千佳が驚く程に。

千佳がそれを尚子に聞くと、この家は他と比べて特別に給料が高いのだという。大体他の家庭と比べて1.5倍から2倍近くあるだろうか。

その理由については、尚子もまだ電話でのやり取りだけで、その家に行った事がないので分からないらしい。

だが何にしても、それが今の千佳にとって魅力的な待遇のアルバイトである事は確かだった。
週に数回学生に勉強を教えるだけでこれだけ貰えるのだから。

しかしこんなに良い話にも関わらず、千佳がその話を引き受けるか迷っているのは、その職種が家庭教師であるからだ。

普段は割かし人見知りをしてしまう性格である自分が、知らない家に行って始めて会う学生にきちんと勉強を教えられるか自信がなかったのだ。
千佳 「私自信ないよぉ……人の受験勉強を教えるなんて……それって結構責任重大でしょ?」
尚子 「そんな深く考えなくても大丈夫よ、私にもできてるんだから千佳にだって絶対できるって。ねっ!お願い!千佳様!一生のお願いです!」
まるで天に願うかのように再び頭を下げる尚子に、千佳はため息をつく。

家庭教師なんて普段の千佳なら絶対に引き受けないが、これだけ親友に頼み込まれたら断れない。
千佳 「はぁ……分かったよ尚子ちゃん……。」
尚子 「えっ?じゃあ引き受けてくれるの?」
千佳 「……うん……今回は特別だけどね。」
その観念したかのような千佳の言葉を聞くと、下げていた頭を上げて嬉しそうな笑顔になる尚子。
尚子 「ありがとー!やっぱり千佳は優しいねっ!あっ、千佳の好きなケーキ頼んでいいよ、今日は私のおごりだから。」
尚子は調子良くそう言って、千佳にカフェのメニューを渡した。
千佳 「いいの?えーっとじゃあチーズケーキ……ねぇ尚子ちゃん、それでその生徒さんって中学何年生なの?」
尚子 「ん?中学生じゃなくて高校生よ、言ってなかったっけ?」
千佳 「えっ!高校生なの!?……そんなの余計に自信ないよぉ。」
千佳は思わずそこで頭を抱えた。
中学生に教えるのと、高校生に教えるのではまるでレベルが違うのだから。

それに大学受験といえば、人生の大事な分岐点だ。
千佳はそれを考えただけで大きな責任を感じてしまっていた。
尚子 「千佳なら頭良いし、気軽に行けばきっと大丈夫だよ。あ、チーズケーキ来たよ。」
目の前に大好物のチーズケーキが運ばれてきても、千佳の不安な表情は変わらない。
こういったプレッシャーに、千佳は滅法(めっぽう)弱いのだ。

自分の大学受験でもどれだけ精神的に追い込まれた事か。
千佳 「はぁ……なんだかまた就活の面接の時みたいにお腹痛くなりそう……。高校何年生の子なの?」
尚子 「確か2年生だったかな、うん。」
千佳 「2年生……切羽詰った3年生じゃないだけ良いかぁ……」
尚子 「そうそう、年下の友達に気軽に勉強教えるような感じで良いと思うよ、うん。……じゃあ千佳、宜しくお願いしますって事でいい?もうチーズケーキも食べてるしね。」
千佳 「……う、うん……。」
こうして少々強引気味な尚子からの頼み事ではあったが、千佳は家庭教師のアルバイトを引き受けたのであった。
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千佳 「えーっと……たぶんこの辺りだと思うんだけどなぁ。」
住所と地図が書かれたメモを見ながら、住宅街の中を歩く千佳。

今日は尚子に頼まれて引き受けた家庭教師のアルバイト、その初日だ。
千佳 「はぁ……やっぱり引き受けるんじゃなかったなぁ……家庭教師なんて……。」
カフェで尚子と話してから2週間程過ぎているが、千佳は正直な所、今でもこの話を引き受けた事を後悔している。

どう考えても家庭教師なんて自分には向いていない。

それにこの緊張感、やはり苦手だ。
千佳 「あ〜もう、なんだかドキドキしてきた……どんな家なのかなぁ、もしかして厳しい所だったりして。……でもそうよね、子供のために家庭教師を付けるような親なんて、教育に厳しい人だよね、絶対。はぁ……やだなぁ……。」
そんな風に独り言をブツブツと言いながら歩く千佳だったが、根は真面目な性格であるので、今日のための準備だけはしっかりやってきた。

手に持っている鞄には、自分が受験生の時にまとめていたノートや、一週間程前から作り続けてきたプリントなどが入っている。

自分が教える高校生の子のためにと、問題集やポイントなどを分かりやすくプリントに書いておいたのだ。

それだけではなく、自分も受験生の時の感覚を取り戻すべく、連日徹夜で高校生時代の勉強を復習していた。

一応家庭教師なのだから、何か質問されて答えられないようではいけないと思ったからだ。
千佳 「ん〜……え……?ここ?もしかしてこの家なの?」
メモに書いてある通りの場所に着いた千佳は、大きな門の前で足を止める。

そして千佳は目の前に佇む家を見上げて、口をポカーンと開けていた。
千佳 「凄い……大きい家……うそぉ……私こんな家の家庭教師しないといけないのぉ……はぁ……」
表札に目を向けると、そこにはやはり尚子に渡された書類に書かれていたとおりの苗字がある。
千佳 「……富田……やっぱりここなんだ……。」
目の前の重厚な門を見るだけでも、この家が普通の家ではないという事は誰にでもすぐに分かる。

きっとどこかのお偉いさんの家なのだろうと、千佳は思った。

それならば、そんな家の子供に勉強を教えるなんて余計にプレッシャーを感じるし、考えれば考える程自分ではやはり無理だと思ってしまう。
千佳 「……はぁ……帰りたい……帰りたいけど……そういう訳にもいかないかぁ……」
もう来年からは社会人になる千佳。

お腹が痛くなる程のプレッシャーは感じるが、この程度の事でヘコたれている訳にもいかない。

もう大人なんだから。

そんな事を自分の心に言い聞かせ、千佳は重い足どりはであるが、門の端にある呼び出しボタンの前まで来ると、意を決したようにしてボタンを押した。
千佳 「……。」
『……はい、どちら様でしょうか?』
千佳 「あっあの……小森と言います。あの……家庭教師の……」
インターホンから女性の声が聞こえると、千佳は緊張気味にそう声を発した。
『あ、はい、お待ちしておりました。今門を開けますので。』
千佳 「は、はい。」
そう答えてから少し待っていると、機械式の門のロックがガチャン!と音を立てて解除された。

そしてゆっくりと開いた門から、1人の女性が出てきた。
結構年配の女性だ。それにエプロンをしている。

お手伝いさんかなぁと千佳は思いながら、その女性にあいさつをする。
千佳 「初めまして、小森千佳と言います。宜しくお願いします。」
山田 「私はここの家政婦をやっている山田です。どうぞ中へ。」
千佳 「はい。」
千佳の予想は当たっていた。この年配の女性が高校生の子を持つ親には見えない。

家政婦の案内で敷地内に入ると、そこには広い庭と大きくて立派な建物が。千佳はその光景にやはり目を丸くして驚くばかりであった。
千佳 「……凄い……」
まるで美術館の中を歩いている子供のようにキョロキョロと頭を動かしながら、周りを見渡す千佳。

そんな千佳の前を歩いている家政婦の女性は、淡々とした口調で千佳に声を掛ける。
山田 「康介さんの部屋は離れの部屋になっていますので、こちらです。」
千佳 「え?康介さんって?」
山田 「えぇ、これから小森さんに家庭教師を担当して頂くこの富田家の長男、富田康介さんですよ。」
その言葉を聞いて、千佳は思わず慌てるようにして声を出した。
千佳 「えっ?えっ?あ、あの!富田さん家の子供さんて、高校生の女の子じゃないんですか!?」
千佳が慌てるのも無理はない。千佳は尚子にこの話を聞いてから、受け持つ生徒はずっと女子高校生だと思い込んできたのだから。
山田 「何を仰いますか、富田家に女のお子さんはいませんよ。ご存じなかったのですか?」
千佳 「え……あ、私はてっきり……」
山田 「男のお子さんだと、何か不都合でもあります?」
千佳 「い、いえ……そんな事は……」
千佳は咄嗟にそう答えたが、本当はそんな事あるのだ。千佳にとって不都合な事が。

しかしそうこういている内に、2人はその離れの建物の前に着いてしまった。

離れといっても、一見普通の一軒家に見える。いや、寧ろ世間一般の家よりも立派かもしれない。

そんな物が、大きな庭の中に子供用の部屋として建っているのだからやはり普通ではない。
山田 「ここが康介さんのお部屋です。中で康介さんが待っていますので、後は宜しくお願いしますね。では私はこれで。」
家政婦は無表情でそう千佳に言うと、すぐに千佳の前から去ってしまった。
千佳 「え?でも、あの…やっぱり……はぁ……行っちゃった。」
千佳の小さな声には反応せず、大きな建物に入っていってしまった家政婦。

そしてその場に残されて、1人離れの家の前で立ち竦む千佳。

予想外の展開に、千佳の頭は少しパニック状態に陥っていた。
……男の子なんて聞いてないよぉ尚子ちゃん……
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……どうしよう……
離れの家の前に立ったまま、困ったような表情でいる千佳。

家庭教師なんてアルバイト自体自分には不向きだと思っているのに、その受け持つ生徒がよりによって高校生の、しかも男子なんて。

女の子とならまだ想像できた。

千佳には妹がいるので、妹に勉強を教えている感覚でやればと思っていたから。

しかしそれが男の子となれば話は別だ。

元々異性と話すのが得意ではない千佳。
もう半分大人みたいな男子高校生と、2人っきりで勉強をするなんて想像できないし、上手く勉強を教えられる自信もない。
……もう……普通こういうのって女性の家庭教師には女の子の生徒って決まってるものなんじゃないの?……
千佳の頭の中にそんな疑問も浮かんだが、この話をもち掛けてきた友人の尚子は個人で家庭教師をやっていたために、もしかしてそういう決まりがなかったのかもしれない。
千佳 「はぁ……困ったなぁ……。」
たださえ緊張してたのに、相手が男子生徒だと思うとさらに気が重くなる。

しかしもう約束の時間は少し過ぎてしまっている。

引き受けてしまった以上、ここで帰るわけにもいかない。
……絶対後で尚子ちゃんに文句の電話してやるんだから……
千佳は少々怒り気味の表情で、その生徒がいるという離れの建物のドアの前に立つ。

そしてそこにまた付いていたインターフォンのボタンをゆっくりと指で押した。

ドキドキと高鳴る千佳の胸の鼓動。
……はぁ……緊張するなぁ……どんな子なんだろう……
そして数秒後、建物の中から声が聞こえた。
『開いてるからどうぞぉ!入っていいよぉ!』
千佳 「え?あ、はい……」
中からのその声を聞いて、千佳はドアノブに手を掛ける。言われたとおりドアには鍵は掛かっておらず、ドアはすんなり開いた。
千佳 「お、おじゃましまーす……」
『勝手に奥の部屋まで入ってきていいよ!今ちょっと手が離せないからさぁ!』
千佳 「は、はい……。」
再び聞こえる高校生らしい若々しい声。

千佳はその声に従い、玄関で靴を脱いで建物の中へと入っていく。

この離れの建物は平屋の造りになっているようだったが、中は結構広い。

玄関から少し廊下を歩いた所にドアがある。おそらくその部屋にその子はいるのだろう。
……それにしても子供用にこんな家を一軒与えるなんて、やっぱり普通の家庭じゃないよね……
千佳はそんな事を思いながらその部屋の前までくると、緊張している心を落ち着かせるために1つ深呼吸をしてからドアをノックした。
『どうぞ〜!』
千佳 「し、失礼しまーす……。」
そう小さな声で言って、ドアを開けた千佳。

すると中はやはり広い部屋になっていて、その奥にソファに座る男の子がいた。

男の子は座ったままテレビ画面を見ていて、手にはゲームのコントローラーを持っている。

どうやら手が離せないと言っていたのは、ゲームをしている最中であったかららしい。
千佳 「あ、あの……富田……康介君だよね?今日から家庭……」
康介 「家庭教師だろ?ったく、家庭教師なんていらねぇって言ったのによぉ、あのバカ親父は。」
千佳 「……え?」
康介 「まぁその辺に適当に座っていいよ、もうすぐこれ終るから。」
千佳 「ぁ……はい……。」
そう言われて、千佳はどこに座っていいのか少し迷ったようにしながら、康介が座っているものとは別にあったソファにゆっくりと腰を下ろした。

そして千佳はしばらく康介がゲームをし終わるのを待っていたのだが、その間どうしていいのか分からずずっとソワソワしていた。

まだ緊張が高まったままの千佳は、落ち着かない様子でゲームをしている康介の方をチラチラと見ている。
……高校2年生の男の子ってこんなに大きかったけ……
康介の体格は、おおよそ男の子と呼ぶには相応しくない程大きかった。

きっとソファから立ち上がれば180cmを超える身長だろう。

顔だけ見れば、少しまだ幼さが残っていて確かに高校生だと思うかもしれないが、体付きはすっかり大人。
それどころか千佳の大学の男友達などと比べても、康介はかなり逞しい体付きをしているように見えた。

何か体育会系の部活でもやっているのかもしれない。
康介 「大学生なんでしょ?」
康介は千佳の方にはまだ目を向けず、テレビ画面を見たままそう聞いてきた。
千佳 「ぇ……は、はい……一応。」
康介 「ハハッ、敬語なんて使わなくていいのに、俺より年上なんだし。で、どこの大学?」
千佳 「ぇ……うん……えっと……○○大学……」
康介 「へぇ、じゃあ頭良いんだ。」
千佳 「……そんな事はないけど……」
千佳は年下の男にこんな口調で話し掛けられても、別に気にしないタイプではあるが、康介のその話し方からは、どことなく子供っぽさを感じる。

見た目は身体が大きくて大人っぽくても、やはり中身はまだ高校生であり、精神的には子供なのだろう。

怖いもの知らずといった感じの康介の雰囲気に少し圧倒されつつも、その中にある子供っぽさを感じた瞬間、千佳の中の緊張は少しだけ治まっていった。
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千佳 「……。」
千佳がソファに腰を下ろしてからすでに5分以上経っていた。

その間相変わらずゲームをし続けている康介は、千佳の方を一切見向きもせずに、ずっとテレビ画面を見ている。

康介は千佳がこの部屋に入ってきてから、まだ一度も千佳の顔を見ていない。

しばらく黙ったまま待っていた千佳だったが、さすがにこのままずっとソファに座っているだけではいけないと思い、重い口を開いた。

千佳は家庭教師という仕事をしに、ここまで来たのだから。
千佳 「あのぉ……康介君……いつまで……」
康介 「……名前、何て言うの?」
千佳 「え?……えっと、小森……です。」
康介 「下の名前は?」
千佳 「……千佳……」
康介 「ふーん……小森千佳さんかぁ、いい名前だね。」
千佳 「ぇ……あ、ありがとう……。」
そう言ってようやく手に持っていたコントローラーを置いた康介は、ゲームの電源を切った。

するとそこで漸く(ようやく)康介の目が千佳の方を向く。
康介 「……へぇ……なるほどね。」
康介は千佳の顔をジロジロと見ながらそう呟いた。

そして千佳を見る康介のその口元は、ニヤニヤと笑っている。

千佳はどうして康介が自分の顔を見て笑っているのかよく分からなかった。

初めて会った人に笑顔を作っているという感じではない。明らかに、何か含み笑いをしているような印象。
康介 「ところでさ、俺なんて呼べばいい?」
千佳 「え?」
康介 「家庭教師だから、やっぱり小森先生とか?それとも千佳先生?」
千佳 「あ、私の呼び方……そっか、どうしようかな。」
康介 「前に受け持った人には何て呼ばれてたの?」
千佳 「私、家庭教師は今回が初めてだから……。」
康介 「へぇ、そうなんだ。それで緊張してるんだ?」
千佳 「う、うん……。」
康介 「ハハッ、そっかぁ。じゃあ千佳先生でいい?」
千佳 「先生なんてちょっと恥ずかしいけど……うん、いいよ。私は康介君でいいかな?」
康介 「いいよ。よろしく、千佳先生。」
千佳 「うん、よろしく。」
やっとちゃんとした会話ができて、千佳は少し安心していた。

さっきまで黙々とゲームをしていた時は、取っ付き難い性格なのかとも思ったが、こうやって話してみると康介の印象はガラっと変わった。

素直で優しい子なのかもしれないと。

相変わらず敬語を使わない話し方ではあるが、良い意味で捉えればフレンドリーな話し方でもある。

それに千佳は康介の顔を見ながら、学校では女の子にモテるんだろうなぁと思った。

背が高くて男らしいスタイルと、まだ少し幼さは残っているものの整った顔立ち。
例え芸能界に居ると言われても、おそらく何も違和感を感じないだろう。
康介 「そうだ、千佳先生何か飲む?お茶かジュースか……酒もあるけど。」
康介はそう言って、部屋の置いてある冷蔵庫の方へ歩いていく。
千佳 「え?お、お酒!?康介君高校生でしょ?駄目だよそんなの飲んでちゃ。」
康介 「冗談冗談、先生って真面目なんだな。じゃあお茶でいい?」
千佳 「う、うん……。」
千佳の方が年上なのに、まるで康介に玩ばれているかのようなやり取り。

少し緊張気味の千佳に対して、余裕たっぷりの康介。

これではまるで先生と生徒が逆になってしまっているかのようだ。
千佳 「あ、そうだ……康介君、今学校の授業ってどの辺まで進んでるのかな?私、一応簡単なテスト作ってきたから、とりあえずそれをやって……」
さっそく家庭教師としての仕事を始めようと、千佳はそう言いながら持ってきたカバンから徹夜で頑張って作ってきたプリントを出そうとした。
康介 「テスト?いいよそんなの、別にやらなくても。」
千佳 「え……でも……これやらないと何処から教えていいか分からないし……。」
康介 「今日はさ、最初なんだし、自己紹介くらいで終わりにしとこうよ。はい、お茶。」
千佳の前にお茶を出した康介は、自分もソファに座り、そして手に持っていたビールの缶を開け、それをゴクゴクと飲み始めた。
千佳 「でも今日の分からお給料もらう事になってるし……一応そういう事はしないと……あっ!康介君それお酒……。」
康介 「気にしない気にしない、俺喉渇いたときはいつも飲んでるから。それよりさ、もっと先生の事教えてよ。」
千佳 「私の事……?自己紹介はもうさっき……」
康介 「まだ名前と大学しか教えられてないよ。う〜ん、そうだなぁ……あっ!そうだ、彼氏は?先生彼氏いるの?」
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千佳 「彼氏は……いない……けど……。」
康介 「いないの?意外だなぁ、先生モテそうなのに。」
康介は言葉が巧みというか、話を切り替えるのが上手いというか、このまま流されていたら、本当に一切勉強を教える事なく時間が過ぎてしまいそうだ。

しかし千佳ももう大人だ。
高校生の言うがままにしている訳にもいかない。お金を貰うのだから、それなりに責任だってある。
千佳 「あ、あのね康介君。私、康介君に勉強を教えに来たの。だからそろそろ、ね?始めよ?」
康介 「はぁ、だから今日は勉強はいいって、俺全然やる気ないから。」
千佳 「そういう訳にはいかないよ、私雇われて来てるんだし。私、プリント作ってきたの、上手くできてるか分からないけど、とりあえずこれ、やってみてくれないかな?」
康介 「……本当に真面目なんだな、千佳先生は。それよりさ、過去に彼氏はいた事はあるの?もう大学4年だもんな、まさか男と付き合ったことないなんて事ないでしょ?」
またも話を擦り替えてきた康介に、千佳は呆れ顔だった。

やはりまだ子供の高校生、けじめは大人がしっかりと付けなければいけない。
千佳 「康介君駄目だよ、そんな事言って誤魔化しても。ほら、このプリント……あ、その前にとりあえず勉強机につきましょう。」
そう言って今までとは違う少し強気の態度で、千佳は鞄から取り出したプリントを康介の前に出す。
康介 「はぁ……分かった分かった、やるよ。でもそのプリントやる前に、さっきの俺の質問に答えてよ。先生、今まで彼氏いた事あるの?それ答えてくれないと俺プリントやらないよ。」
千佳 「もう……仕方ないなぁ……それを教えたら本当にプリントやってくれるの?」
康介 「あぁ、本当だよ。だからほら……。」
なんだかんだと言って、結局は康介のペースに嵌ってしまっている千佳。

だがそれは仕方ないのかもしれない。千佳は元々人見知りで大人しい性格であり、誰かに何かを指導する『先生』なんて役は、千佳の性には合っていないのだから。
千佳 「……う、うん……いた事ならあるよ……。」
千佳が少し恥ずかしいそうにそう答えると、康介はその言葉を聞いて、なぜか笑みを浮かべながら嬉しそうにしていた。
康介 「へぇー、やっぱそうなんだぁ。そうだよな、今時高校生でも付き合った事ない奴なんて少ないもんな。」
千佳 「はい答えたよっ、机についてプリント始めようね。」
康介 「はいはい、千佳先生はせっかちだなぁ。」
そんなやり取りの後、ようやく2人は部屋にあった木製の勉強机に向う。

その時、2人共同時にソファから立ち上がったのだが、千佳はその時に改めて康介の身長の高さを感じた。

長い手足、広い肩幅。

千佳が割かし小柄で童顔な事もあるが、おそらくこの2人が並んで歩いていたら、誰もがカップルだと勘違いしてしまうだろう。

まさかこの2人が『先生』と『生徒』の関係だとは誰も思うまい。
康介 「ふぅ……久しぶりに座ったなぁ、この椅子。」
千佳 「はい、これプリントね。時間制限とかはないから、のんびりやっていいよ。」
康介が勉強机の椅子に座り、千佳がその隣にある別の椅子に座る。

このポジション、やっと家庭教師っぽくなってきたと千佳は感じていた。

そして康介もシャーペンを持ってプリントを眺め始める。

だがしかし、康介はそこまでいっても、なかなか問題に取り掛かろうとはしなかった。
康介 「……ねぇ先生。」
千佳 「ん?何?分からない箇所は飛ばしていいよ。今日のはどこが分かってどこが分からないかの確認のためのプリントだから。」
康介 「……先生はさ、付き合った事あるって言ってたけど、今まで何人の男と付き合った事あるの?」
再び始まったその手の質問に、千佳はさすがに困り果てたような顔をしていた。
千佳 「もう……そういうのは勉強と関係ないでしょ?真面目にやってくれないと私……。」
康介 「いいじゃんそれくらい、答えてよ先生。生徒の質問に答えるのが先生の仕事でしょ?」
千佳 「でも……それはなんか違うような……。」
康介 「俺ってさ、他の事が気になりだすと全く勉強ができなくなるタイプなんだよね。だからさ、教えてよ。別に教えて減るもんじゃないでしょ。」
相変わらず話の主導権を握るのが上手い康介。

千佳は、この子相手にこれから家庭教師をしっかりやっていけるのだろうかと不安になっていた。

しかし、この様子だと質問に答えなければ本当に前に進まない感じだ。

こんな質問、本当は恥ずかしいから答えたくないのだが……。千佳は少し考えた後、やれやれといった様子で口を開いた。
千佳 「はぁ……それに答えたら、プリント始めてくれるんだよね?」
康介 「ハハッ、もちろん!」
千佳 「じゃあ…………ひとり……かな……。」
千佳は恥ずかしそうにしながらそう小さな声で言った。

どうしてこんな事を言わないといけないのだろうと内心思っていたのだが、この状況では仕方ない。

高校生という時期は、誰でも色んな事に好奇心旺盛になるのだという事は千佳も知っている。
康介 「え?1人?」
千佳 「……う、うん……」
康介 「1人って事は、1人しか付き合ったことないって事?本当に?」
千佳 「……そ、そうだけど……。」
少し驚いているような康介の反応に、千佳はどうしてそんなに驚かれないといけないのだろうと思っていた。

今まで付き合った恋人が1人だけなんて事は、千佳の同い年の友人には沢山いる。

その事は決して珍しくないと思っていただけに、千佳は康介の反応に少し困惑していた。
康介 「へぇ……じゃあ先生は結構初心っ子ちゃんなんだ?」
千佳 「初心っ子ちゃん……?」
康介 「勉強はどうか知らないけど、そっちは俺のが経験豊富かもなぁ……へへ……先生さ、その1人だけ付き合った彼氏とはどこまでいったの?」
千佳 「……ど、どこまでって?どういう事?」
困惑気味の表情でそう言った千佳に対し、康介は声を出して笑って見せた。
康介 「またまたぁ!先生がいくら初心っ子ちゃんだからってそれは惚け過ぎでしょ。どこまでって、どんな関係まで進んだのかって事ですよ、男と女の関係が。」
それを聞いて漸く康介の質問の意図を察した千佳は、顔を真っ赤にさせた。
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千佳 「あ、あのね康介君、そういう事は……。」
男子高校生なのだから当然、性的な事への興味もかなりあるのだろう。

しかし、富田家に雇われている家庭教師である前に1人の女性でもある千佳。
特に恥ずかしがりやの千佳が、そんな質問に軽々しく答えられるわけがない。
康介 「ハハッ、先生可愛いね。そんな事聞かれたくらいで顔赤くしちゃうなんて。」
千佳 「も、もうっ!大人をからかわないでよ!ほら、いい加減プリントやりなさいっ。」
康介 「はいはい、分かりましたよ。」
千佳が少し強めの口調で注意してから、康介はやっと問題を解き始めた。

勉強を始めるまでこんなに梃子摺って(てこずって)しまうなんて、これから先が思い遣られる。

しかし千佳はそう思う一方で、康介が人見知りをしない話しやすい性格の持ち主で良かったとも思っていた。

なにせ自分がかなりの人見知りであるため、受け持つ生徒も大人しい子だったらどうしようと心配していたのだから。

勉強とは関係ない事ばかり質問されるのは家庭教師として良くないのかもしれないが、逆にそんな会話のお陰で、2人の『先生と生徒』という関係を堅苦しいものにせずに済むかもしれない。

千佳としても、勉強ばかりの固い関係よりも、少しくらいフレンドリーな関係の方が気が楽だ。
千佳 「……。」
そんな事を考えつつ、隣に座って康介がプリントをやるのをじっと見ていた千佳は、ある事に気付いた。

康介のペンの進みが早い。

分からない問題は飛ばしていいとは言ったが、それ程飛ばしている様子もなく、次々と問題を解いていっている。

最初はなんだか軽そうな感じで、少しチャラチャラしてそうな雰囲気だったけれど、意外と勉強はできるのかもしれない。

千佳はそんなギャップに少し驚きながら、先程までとは打って変わって真剣に勉強に取り組む康介の姿を見つめていた。
康介 「ふぅ……はい、終わったよ、千佳先生。」
千佳 「ぇ?あ、はい、お疲れ様。康介君早いね、私ビックリしちゃった。」
康介 「このくらい簡単だよ。よし、終わったらから休憩だな。」
千佳 「う〜ん……どうしようかな、こんなに時間余っちゃって……一応他のプリントもあるけど……。」
康介があまりにも早くプリントを終わらせてしまったため、予定の時間がかなり余ってしまった。

そのため真面目な千佳は残りの時間で何をしようかと考えていたのだが。
康介 「やらないよ、そんなの。今日は初日なんだから、これくらいで充分だよ。」
千佳 「……でも……。」
康介 「他の家庭教師もそんな感じだったよ。……あっ!そうだ。家政婦のバアさんからケーキ渡されたんだ。先生食べるだろ?」
千佳 「え?あ、ありがとう。」
康介 「ほら、もう勉強机からは離れて、ソファに座ってゆっくりしようよ。」
千佳 「う、うん……。」
初めての家庭教師、しっかりと仕事をできたという実感はなかったが、もしかして康介の言うとおり、初日というのはこんなものなのかもしれない。

それから2人は残りの時間をケーキを食べながら、談笑して過ごしていた。

康介の高校での話や、千佳の大学での話で盛り上る。

千佳が家庭教師をやる事になった経緯や、まさか生徒が男の子だとは思っていなかったという話もした。

最初は家庭教師で雇われて来てるのに、こんな談笑をしていていいのかという気持ちもあったが、気付いた時には話に夢中になっていて、残って困っていた時間も過ぎるのはあっという間だった。

今日初めて会った相手、それも年下とはいえ異性の相手とこんなにも早く打ち解けられたのは、千佳にとっては珍しい事だ。

大学生になってから1人だけ付き合った男性とも、お互いに好意は持っていたものの、2人共大人しい性格だったためかデートの時もイマイチ話が弾まなくて、結局そんなに長くは持たずに別れてしまった。

そんな経験の持ち主である千佳にとって、康介との出会いは新鮮なものであったのかもしれない。
康介 「じゃあ千佳先生、またね。」
千佳 「うん、次はもうちょっと難しい問題集持ってくるからね。」
康介 「それは勘弁。嫌だなぁ、千佳先生真面目だから本当に難しくしてきそうだもんなぁ。」
千佳 「どうしようかなぁ……フフッ、じゃあまたね。」
富田家を出る頃には外は暗かった。

康介が駅まで送ろうかと申し出てきてくれたが、千佳はそれを断り、なるべく明かりのある道を選んで一人で夜道を帰っていった。
……次は明後日かぁ、帰ったらプリントの答え合わせして、康介君が分からない所チェックしないとね……
どうなるものかと思っていた家庭教師のアルバイト。
とりあえず無事に終わってよかったと、千佳は安心していた。

心配事がなくなって、心が軽くなったように感じる。

心地の良い風があって涼しい夜。
星が見える綺麗な夜空を眺めながら歩く千佳の表情は、少し上機嫌であった。
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尚子 「で、初めての家庭教師、どうだったの?」
本当は尚子に対して怒るつもりだった。

?受け持つ子が男の子だなんて聞いてないよ!?と。

だが今の千佳の心からは、そんな気持ちは全くと言っていい程消え去っていた。
千佳 「うん、なんとか無事に終わったよ。最初は結構不安だったけど。」
尚子 「へぇ、そうなんだぁ。あれ、なんか千佳機嫌良い?もしかして相手の男の子、凄いカッコイイ子だったとか?」
尚子からの思わぬ指摘に、千佳は顔を赤くし慌てた様子でそれを否定する。
千佳 「え?ち、違うよ!そんなんじゃ……安心してるだけだよ、家庭教師なんて私には無理だって最初は思ってたし……。ていうか尚子ちゃん、男の子だって事知ってたの?」
尚子 「うん、だって相手が男の子なんて事言ったら、千佳に絶対断られると思ったんだもん。でも私も根暗な子だったら千佳大変だろうなぁって心配してたんだけど、良かったね千佳、カッコイイ男の子に当たって。」
千佳 「もう……だから違うってばぁ……。」
尚子 「あ、千佳はどちらかと言うと年上が好みだったんだっけ?でも分からないわよぉ、人の好みなんてその時その時ですぐ変わるから。」
確かに康介の容姿はカッコイイ。

しかしまだ高校生だ。千佳もまだ一応学生で21歳だが、それでも康介とは4つも離れている。

社会に出れば4つの年の差なんて大した事はないのかもしれないが、今の千佳にとってはその差は大きく感じるのだ。

自分の高校生時代を思い出すだけでも、あの時は子供だったなぁと思う。

だから高校生相手に、何か特別な感情を持つなんて事は考えにくかった。
千佳 「変な事言わないでよぉ、そんな事意識してたら勉強教え辛くなるじゃん……。」
尚子 「フフッ、でもその様子だといい子だったんでしょ?その男の子。」
千佳 「……うん……話しやすい子ではあったかなぁ、友達気分ってのも問題かもしれないけど。」
尚子 「へぇ、良いじゃない。話し易くてカッコイイ相手なんて。オマケにお金持ちだもんね。何か進展あったら報告してよね。」
千佳 「ちょ、ちょっとぉ、だからそんなつもりないってばぁ……。」
変に話を茶化してくる尚子に、千佳は困ったような顔をしていたが、機嫌が良いというのは少しばかり当たっていたかもしれない。

昨日は家庭教師のアルバイトに行くのにあんなに憂鬱な気分であったのに、今は何となくあの康介の部屋に行くのが楽しみ。

家庭教師という仕事に楽しさを感じ始めているとか、康介に会うのが楽しみとか、そんなハッキリとした感情ではない。

ただ無意識の内の気持ちというか、康介の家に家庭教師をしに行く事が何の苦にもならなくったというのが一番正しいのかもしれない。

もちろん、まだ一度しか富田家には訪問していないのだから、これからも順調に事が進むとは限らないが、少なくとも康介が相手の家庭教師ならば、最後までやれるような気がしていた。
翌日、再び富田家に訪れた千佳。
初日と同じように、家政婦の山田という老年の女性に門を開けてもらい、康介がいる離れの家まで行く。

2回目の今日は初日とは違い、康介にしっかりと勉強を教えないといけない。

そういう意味で、千佳は少し気合を入れていた。

プリントで康介が間違っていた点、分からない点も把握してきたし、どういう風に教えれば分かり易いかも自分なりに考えてきた。

家庭教師として来てるからには、ある程度結果を残さなければいけない。千佳はその責任をちゃんと感じていた。

もちろんそれは、初日のあの後ろ向きな気持ちではなく、前向きな気持ちだ。

目標は康介の成績アップ。そのために、家庭教師としてできる限りの事はしないと。
離れの家に付いている呼び出しボタンを千佳が押すと、少ししてから中から康介の声が聞こえてきた。
康介 「開いてるから入ってきていいよぉ!」
康介は玄関まで出てくる事なく、まるで友達を招く時のような感じでそう呼んだ。

そこまでは昨日と同じだったのだが、千佳はここに来て、昨日とは違う緊張感を少し感じ始めていた。
……もう……尚子ちゃんが変な事言うから……
大学で尚子に言われた事を思い出すと、なんだか気まずくなる。

自分にはそんな気持ちはないと思っているはずなのに、もうすぐ康介に会うのだと思うとなぜか胸の鼓動が少しだけ早くなった。
千佳 「……ふぅ……」
康介の部屋の前で1つ深呼吸。そして千佳は頭を横に振って、心からその邪念振り払ってから、ゆっくりとドアを開けた。
9
千佳 「お邪魔しまーす……」
康介 「来た来た、飲み物用意するからその辺座ってていいよ。先生はお茶でいい?」
千佳 「う、うん……ありがとう。」
康介はこの前となんら変わらぬ様子で、千佳を部屋に招き入れた。

そして千佳は言われたとおり、ソファに座る。

ふと目を向けた前のテーブルの上には、サッカーのスポーツ雑誌が置かれていた。

それだけ見てみても、なんとなくここは男の子の部屋なんだなと、千佳は感じる。

考えてみれば、高校生とはいえ恋人でもない男の部屋に当たり前のように1人で入っていくなんて、千佳にとっては結構大それた事だ。
康介 「今日さぁ、すっげぇ暑くない?もう暑すぎて学校行く気失せるわ。」
飲み物を持ってきて千佳の前に出した康介は、何気なしにそんな話題をふってきた。

まるで友達に話し掛けてくるように。

前回余った時間で沢山会話したからなのか、2人の間になんの壁も感じさせないような話し方を康介はしてくる。
千佳 「うん、暑いよね最近。」
康介 「あ〜海行きてぇなぁこんな日は。今年はまだ行ってないからなぁ。先生はさ、海とか行かないの?」
千佳 「海?うーん……大学2年の時に友達と行ったっきりからなぁ。でもあんまり、焼けるのが苦手っていうか。」
康介 「ふーん、先生肌白いもんね。で?先生その時どんな水着着たの?やっぱビキニ?」
千佳 「え?……うん……一応ビキニだったかな……。」
康介 「へぇ、どんな水着?何色?」
千佳 「色は……青とか白のストライプ……みたいな感じだったかなぁ。」
康介 「へぇ、なるほどねぇ……。」
そう言って康介はニヤニヤ顔で、千佳の身体の方に目線をやった。

千佳も当然身体へのその視線を感じている。
千佳 「……あの……康介君?」
康介 「先生ってさぁ、結構オッパイ大きいよね。何カップあるの?」
前回と同様の、康介からの少し卑猥な質問に千佳はまた顔を赤くした。
千佳 「なっ……そ、そんな事教えません!……もう……康介君ってそういう質問ばっかり……」
康介 「ハハッ、またこのくらいの質問で恥ずかしがっちゃって、可愛いなぁ千佳先生は。」
千佳 「もう、からかわないで!……あっ、こんな事話してる場合じゃないよ康介君、今日はさっそくお勉強始めましょ。この前のプリント、康介君が間違ってた箇所もあったから、そこの見直しからね。」
千佳は意識的に話題を切り替えるようにしてそう言うと、鞄からプリントなどを出して勉強の準備を始める。

しかしこれも前回同様、康介はなかなか勉強に取り掛かろうとはしなかった。
康介 「え〜もう始めるのかよ。もうちょっと力抜いていこうよ、のんびりさ。」
千佳 「そういう訳にはいかないよ。私、康介君とおしゃべりするために来てるんじゃないし。ほら、早く机について。」
康介 「なんだよ、急に学校の先生みたいになっちゃって。俺さ、今日全然やる気ないんだよね、勉強とか。そういう気分じゃないから。」
そんな事を言われてしまっては元も子もない。

勉強する気がない人に勉強を教えるなんて事は難しい。

これはいくら勉強を教えるのが上手な人でも、相手にやる気がないのではどうしようもない。
千佳 「……康介君、そんな困るような事言わないでよぉ。それに今しっかり勉強しておかないと来年苦労するよ。」
康介 「別に苦労なんてしないよ。俺、大学なんてどこでもいいし。いいじゃん先生、勉強教えてなくてもこの部屋に毎回来てくれればうちの家、ちゃんと給料払ってくれるよ。」
千佳 「え〜……でもそういう訳には……。」
康介 「こうやってさ、勉強よりも先生と色々話している方が楽しいじゃん。」
千佳 「だーめっ!やっぱり駄目よそんなの。もう……困った子だなぁ……康介君、どうやったらやる気出してくれるの?……あ、そうだ!ご褒美あげようか?勉強がちゃんとできたらご褒美あげる。」
千佳が思い立って出したそのご褒美という言葉に、康介は反応を示す。

ご褒美という言葉をどういう風に受け止めたのか分からないが、康介は少し嬉しそうに笑っていた。
康介 「へぇ……ご褒美?何々?それってどういうご褒美?」
千佳 「ん〜そうだなぁ……あ、そういえばアレが少し残ってたっけ……。」
千佳は何かを思い出しかのようにそう言うと、持ってきた自分のバッグの中に手を入れて何やらガサゴソと音を立てながら探し始めた。

康介はそんな千佳の行動を不思議そうに見つめている。
千佳 「これね、私は大好きなんだけど……あ、あった!」
そう言って千佳がバッグ取り出した物、それはキャラメルだった。
千佳 「これ駅前のパティスリーで作ってる特性のキャラメルなんだよ、スッゴイ美味しいから。お勉強ちゃんとできたらこれ1つあげるってのはどう?」
しかしそれを見た康介の表情は、笑顔から一気に呆れ顔に変わる。

そして康介は乗り出していた体をソファの背にもたれさせて、大きくため息をついた。
康介 「はぁぁ……なんだよそれ、俺はガキじゃないっての。そんなご褒美で喜ぶわけないだろ……。」
千佳 「え?駄目なの?これキャラメルにしては結構高いんだよ?」
康介 「駄目に決まってるだろ。あ〜期待して損したわ。」
千佳 「え〜そんな……じゃあ、康介君はどういうご褒美ならいいの?」
千佳は困り果てたような表情で康介に問う。

このままでは家庭教師としての自分の役目を果せない。
給料は出ると言われているのにそんな風に思ってしまうのは、やはり千佳が真面目な性格だからなのだろう。
康介 「そうだなぁ……例えば……」
千佳 「例えば?」
康介 「……先生のオッパイ、何カップか教えてくれるとか。」
10
どうやら康介はどうしてもそういう話にもって
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