えちえち体験談

妻が接待で体験した超肉食絶倫..

2015/05/27 19:54カテゴリ : 寝取られ体験談

結婚8年目、菜穂と智明の夫婦生活は2年前までは順調だった。

2人の子供に恵まれ、一戸建ての家もローンを組んで購入。

智明も、さぁこれからバリバリ働いていこうと意気込んでいた矢先の事だった。

2年前の猛烈な不況の煽りによって、智明が勤めていた会社が傾き始めたのだ。

それでも真面目な智明は必死に働いた。

家族のため、そして会社のためにも。

智明は、お金のためだけに働いていた訳じゃない。高い志を持って就職した会社だ。

上司も、社長も、若い頃からお世話になった人達ばかり。

だからこの会社の危機を乗り越えるために、一社員として何とか力になりたかったのだ。

沈みかけた船から逃げ出す者も沢山いた。でも、智明は最後まで残った。

2年間は殆ど不眠不休で働いた。

菜穂もそんな智明を支えるために、妻としてできる限りのサポートはしてきた。

先行きの不安は相当なものであったし、2人共胃が痛くなるような日々が続き、その中で智明がストレスのあまり円形脱毛症になってしまった事さえあった。

菜穂はそんな智明が心配で心配で仕方なかったが、それでも一生懸命頑張っている智明を尊敬し、応援し続けた。

だが、現実は残酷だった。

一時は立て直しの兆しを見せた会社も、世の中の流れには勝てず、結局倒産してしまったのだ。
「菜穂、ごめん、こんな事になってしまって。」
「そんな、智明が謝る事ないわよ。仕方のない事だし……智明は一生懸命頑張ってくれたんだもの。」
会社は倒産し、職を失って、智明はげっそりする程落ち込んでいた。

しかし、智明には守るべき家族がいる。

生活のためには、こんな状況でも前に進まなければいけないのだ。

失業手当を支給してもらいつつ、智明は職業安定所でさっそく就職活動を始めた。

だがそこでも智明は世の中の厳しさを感じざるを得なかった。

良いと思った会社に10社程面接を受けに行ったが、すべてダメだった。

もちろん、それでも働ける場所が全くない訳ではない。

多くの事を妥協すれば、この不況の中でも雇ってくれる所はある。

でも、あまりに安い賃金では住宅ローンはとても払っていけないし、子供の養育費だって厳しい。

菜穂と沢山話し合って買った、こだわりの家。

菜穂が喜んでくれたキッチン、休日にはいつも智明が手入れしていた綺麗な庭、2つの可愛い子供部屋。

この家まで、手放さないといけないか。

どうしてこんな事に。

少し前まではあんなに幸せに暮らせていたのに。

しかし、それでも現実とは向き合わなければいけない。

菜穂はパートタイムで働き始めてくれていたが、智明も早く就職先を決める必要があった。
そんな中、前の会社で同期だった近藤という男から智明に連絡が入った。

近藤は智明よりも一足先に会社を辞め、すでに新しい会社に再就職していた。

それで近況報告がてら、久しぶりに一緒に飲まないかと。

正直今はのんびり酒を飲んでいる余裕などなかったのだが、再就職の事でなにか参考になる話が聞けるかもしれないと思い、智明は呼ばれた居酒屋に出向いた。
「おお、小溝!久しぶり!」
「久しぶり、元気そうだね。」
「ハハッ、まぁ、とりあえず一杯飲めよ。」
そう言ってグラスを智明に渡して瓶ビールを注ぐ近藤。

智明はそのビールに口を付けて少量だけ喉に流し込んだ。

元々そんなに酒は得意ではない智明。今は状況が状況だけに、特にこの酒は美味しくは感じられなかった。
「で、どうよ?最近調子は。」
「いや、それが……色々と厳しくて。」
「もしかして、まだ決まってないのか?再就職。」
「なかなかね。早く決めたいとは思っているんだけど。」
「そうなのか……意外だな、お前ならすぐに雇ってくれそうな所くらいありそうなものだけど。」
「その辺の事は少し甘く考えていたのかもしれない。まさかここまで再就職で苦しむとは思わなかったよ。」
「俺が2年前に辞めた時は今ほど悲惨な状況じゃなかったからすぐに決まったけど、やっぱり厳しいんだな、今は。」
「まいったよ、本当に。」
「悪かったな、そんな大変な状況なのに呼び出したりなんかして。」
「いや、いいよ、別に。」
「……ところで小溝、菜穂ちゃんは元気なのか?」
「菜穂?菜穂はなんとか元気でやってるよ。色々心配は掛けてしまっているけどね。菜穂のためにも、早く働く場所を決めないと……。」
それを聞いて、近藤は少し考え込むようにしていた。

そしてグラスに残っていたビールをゴクゴクと飲み干すと、こんな事を言い始めた。
「なぁ小溝、うちの会社で良かったら、人事の方に聞いてみようか?お前を雇えるかどうか。」
「えっ?いいのか?」
「ああ、うちの会社がお前が望む条件に合っているかどうか分からないけどな。」
「いや、頼むよ、ぜひ。」
近藤が再就職した会社は業界では結構大手だ。

正直智明は、早々にそこに再就職を決めた近藤の事が羨ましいと思っていたんだ。
「でもあんまり期待しないでくれよ。俺も人事に聞いてみないと、雇えるかどうかは全く分からないからさ。」
「聞いてくれるだけありがたいよ。ありがとう!本当に。」
「ま、俺も菜穂ちゃんが悲しんでる顔は見たくないしな。」
期待しないでくれよと言われても、期待してしまう。

もしこの話が良い方向に進んでくれれば、菜穂を安心させてあげられる。住宅ローンだって、どうにかなるかもしれない。

智明は心から近藤に感謝した。
だがしかし、智明はこの時思いもしなかった。

まさかこの話が、近藤の悪意に満ちたものであったとは……。

智明と近藤は同期だったとはいえ、実は元々そんなに仲が良い訳ではなかった。

入社当時こそ、よく一緒に飲みに行ったものだが、2年3年経つにつれ、そういう機会は減っていった。

と言うのも、智明は上司には可愛がられ、後輩にも慕われるタイプであったのに対し、近藤はその逆で、遅刻が多かったり、仕事の期限を守れなかったりと、上司からの信頼も薄く、その割に後輩には大きな態度を取っていたので嫌われていた。

そんな社内で智明が次々と昇進していく中、近藤はすっかり置いてきぼりを食い、社内で邪魔者扱いされてしまっていたのだ。

だから元々プライドだけは高い性格だった近藤は、同期の智明に尋常じゃない程の嫉妬を抱いていた。

そしてそんな中、そのプライドをさらにズタズタに破壊される出来事が起きた。

智明と菜穂の結婚だ。
同じ業界の関連企業に勤めていた菜穂に、先に目を付けていたのは近藤の方だった。

菜穂は透明感のある清楚なタイプの美人で、それでいて出しゃばったりしない控えめな性格で、近藤は菜穂と少し会話しただけでその優しげな笑顔に心奪われてしまったのだ。

整った顔立ちと高身長のスタイルを持ち合わせていた近藤は、学生時代から女には不自由してこなかった。

だから当然菜穂も自分のものにする自信があった。

しかし、菜穂からの返事はNOだった。やんわり「ごめんなさい」と。

何度か食事にも誘い、手応えはあった。もうすぐ俺のものになるぞと、確信していた。

それなのに、なぜだ。理解できなかった。

近藤にとって、女性に振られたのはそれが人生で初めての事であった。
それからしばらくして、智明と菜穂が付き合っているという話を人伝で聞いて、近藤は驚いた。

菜穂と智明が……?馬鹿な。

どうやらとある会社関係のパーティーで知り合ったらしい。

そして付き合い初めて1年半後に、智明と菜穂は結婚。

近藤があんなに口説くのに苦労していた菜穂を、智明はあっさりと奪っていったのだ。
しかし近藤も大人の男だ。みっともない所は見せられなかった。

近藤は2人の前で笑顔を見せ、祝福した。
「智明、やられたよ、本当は俺も菜穂ちゃんを狙ってたんだけどな。ハハッ冗談だよ、昔の事だ。おめでとう!俺も嬉しいよ、2人が一緒になってくれて。菜穂ちゃんを幸せにしてやれよ。」
でも内心は穏やかではなかった。

社内でも多くの祝福を受けて笑顔を見せていた智明を、近藤は隅から睨みつけていた。

これ以上ない程の屈辱感を、その時近藤は味わっていたのだ。
「人事部長の天野さんは天野社長の息子で、将来的にはうちの会社を継ぐことになるかもしれない人だから、天野さんに気に入られれば間違いないぞ。」
智明は近藤が言っていた言葉を思い出し、緊張していた。

これから受ける面接が、この先の人生を決める。

なんとしても成功させなければならなかった。
「小溝さん、どうぞ。」
「は、はい!」
その天野部長による直接の面接。

掛かった時間は、予想よりも大分短かった。
「そうですか、確かに前の会社での実績は大した物だ。う〜ん、でもねぇ……いや、実は親しい近藤君からの紹介って事だったから面接しようという事になったんだけどね、うちは今どちらかと言うと中途採用には慎重でね。」
社長の息子だという天野部長は、イメージしていた人物とは違っていた。

歳は智明や近藤より二つ三つ上くらいだろうか。

もっと堅そうな人を想像していたが、なんというか、その容姿は会社員らしくないというか、社会人らしくないというか。

スーツこそ着ているものの、肌は黒く焼け、髪も染めているようだし、なんと耳にはピアスまでしていた。

身に着けているものは高級そうだし、不潔感はないが、どこか軽く見えた。
「では合否については、またこちらから連絡しますから。」
「はい、本日はどうもありがとうございました。……失礼いたしました。」
面接の手応えはなかった。

向こうの態度からは、仕方なく面接をしてやっているという雰囲気が漂っていた。

天野部長の表情は、なんとも面倒臭そうで、さっさと終わらせたいという本音が透けて見えていた。

正直、今まで受けた10社よりも面接の出来は悪いように思えた。

智明は暗い気持ちで家に帰った。
「おかえりなさい。」
家の玄関のドアを開けると、エプロン姿の菜穂が迎えてくれた。

キッチンの方からは美味しそうな香りがする。

菜穂はこんな大変な時期でも家族の食事を全て手作りしてくれていた。

菜穂自身もパートの仕事や子育てで多忙だというのに、色々と工夫しながらお金の掛からない節約料理を家族のために。

食事の時くらいは美味しい物を食べて、笑顔になってほしいという菜穂らしい前向きな優しさだった。

その菜穂の優しさや、子供たちの笑顔が、どれだけ智明の心の支えになってきた事か。

しかし今日ばかりは、さすがにそんな料理でも喉をなかなか通ってはくれなかった。
食事やお風呂を済ませ、子供達を寝かせた後、智明は重そうに口を開いた。
「今日行ってきた面接の事なんだけど……駄目かもしれない。」
「ぇ……」
「たぶん今日の感じだと……採用はしてくれないと思う。」
「……そう、だったの……」
?駄目かもしれない?という智明の言葉に、菜穂もショックを隠しきれていなかった。

近藤から話があった時には、正直菜穂も期待してしまっていたのだ。これで決まってくれればと。

しかし菜穂は落ち込む智明の姿を見てしばらく考え込むようにした後、こう話し始めた。
「ねぇ智明、私……この家は諦めてもいいよ。私は子供達と智明が元気でいてくれれば、それだけで幸せだし。それに私も働けるし、きっと家族で協力していけば大丈夫よ。ね?」
そう言って菜穂は下を向く智明の手をとって、両手で包み込むようにして握った。
「……ぅ……ごめん……菜穂……」
「大丈夫、大丈夫だよ、智明。」
智明は菜穂の優しさに包まれながら、男泣きしていた。

ここ数年ずっと辛い時期を過ごしてきた智明、もう精神的に限界を超えていたのだ。
しかしそれから数日後、近藤から思わぬ連絡が入った。

なんと、近藤が天野部長との食事会をセッティングしてくれたのだと言う。

そこで採用について天野部長から前向きな話があると。
「それでな小溝、そこにはぜひ菜穂ちゃんも出席してほしいんだよ。」
「え?菜穂も?」
「あぁ、ぜひ夫婦で来てほしいんだ。その方が印象も良いと思うし。駄目か?」
「いや、そんな事はないけど……分かったよ、菜穂も一緒に行けばいいんだね?」
「あぁ、じゃあ頼むよ。」

「奥さんどうです?ここのフォアグラ、美味しいでしょう?」
「は、はい、とっても。」
「しかし、まさか小溝さんの奥さんがこんなに美人な方だったとはねぇ、驚いたよ。」
食事会はとあるフランス料理店の個室で行われていた。

席に座っているのは近藤と人事部長の天野、そして智明と菜穂の4人である。

この食事会がいかに大事なものであるかを、菜穂はしっかり認識していた。

なにせ目の前にいるこの人事部長のさじ加減一つで、夫の仕事と、自分達家族の今後の生活が左右されるのだから。

正直リラックスして食事なんてできなかったし、料理を味わう余裕だってなかった。

どうして妻である自分までもここに呼ばれたのかは分からなかったが、とにかく、相手に失礼があってはいけない。

智明の妻として、できる限りの気遣いはしないと。
「お二人はもうご結婚されてどれくらいなんですか?」
「もう8年目になります。」
「8年?へぇ、まだ新婚夫婦のように見えるのに。お子さんは?」
「子供は2人、います。」
「2人もいるんですか、それはそれは、良いですねぇ。でも奥さんは本当に、子持ちとは思えないほど若々しくてお綺麗だ。」
「いえ、そんな……」
「奥さんはモデルでもやっていらしたんですか?」
「私がモデルですか?い、いえ。」
「本当に?どこからかスカウトがあってもおかしくなさそうなのになぁ。まぁ私がスカウトマンだったらこんな美人、間違いなく声を掛けますけどねぇ、ハハハッ!」
少し話をして、菜穂はこの人事部長の天野という男が苦手だと思った。

前もって智明から聞いていたものの、その風貌はとても会社員には見えないし、出てくる話題も、なんとなく不真面目と言うか、セクハラじみているような気がする。

それに悪気はないのかもしれないが、目つきや視線もイヤらしいような感じがしたのだ。

ギラギラして脂ぎっていると言うか、顔だけではなく身体までじっくり観察されているような、そんな視線。

もちろんそれは菜穂が我慢できない程のものではない。

いや今日に限っては、どんな事を言われようとも笑顔で応えなければならないのだ。家族のために。
それからも話題は菜穂の事が中心だった。

大学時代やOL時代の事を色々聞かれたり、子供はもっと増やすつもりはないんですか?なんて事まで聞かれた。

採用に関しての話だと聞いてきたのに、智明の方には殆ど目もくれない。
「奥さんは腰がしっかりしてそうだし、へへ、もっと沢山子作りして、2人と言わずに3人4人と作ればいいのに。今は少子化だしな。近藤君もそう思うだろ?」
「ハハッ、そうですね。」
デリカシーのない言葉。

でも嫌な顔は見せらない菜穂は、頑張って笑顔を作っていた。

そしてそれからしばらくしてデザートが運ばれてきた頃に、やっと話は本題に入っていった。
「しかし大変だったでしょう、子供もいるのに旦那さんの会社が倒産してしまうなんて。」
「……そう、ですね。」
「今はどこも厳しい。小溝さんと同じように職を探している人間は沢山いるからねぇ。」
「そうですよね……。」
「うん。それでね、小溝さんの採用の事なんだけど、まぁうちも中途採用には今は消極的なんだが……今回は近藤君からのお願いだから、特別だな。」
そこまで聞いて、智明と菜穂の表情はパッと明るくなった。
「ハハッ、まぁ私もこの美人な奥さんの悲しむ顔は見たくないんでね、断ることはできないよ。だから小溝さん、とりあえず契約社員での採用という事でどうだね?」
しかし?契約社員?という言葉を聞いて、一瞬智明の顔が曇る。

本採用してくれるって話じゃなかったのか。
「契約……社員ですか?」
「ハハッ、まぁ悪いように受け取らないで、本採用へ向けた契約だと思ってくれればいいよ。結婚して子供も2人いるならそれなりの給料じゃないと満足できないでしょう?だからこちらも小溝さんにはそれなりに良いポジションを用意したいんですよ。」
「はぁ。」
「良いポジションというのは、それだけ重要だという事だ。つまり、能力のない人間には勤まらない、分かりますよね?」
「はい。」
「だからこちらとしては、その契約期間の内に、小溝さんがそのポジションに見合った仕事ができるかどうか、見極めたいんですよ。言い方は悪いかもしれないが、我々はハズレくじは引きたくないんでね。アタリである事を確認してからじゃないと本採用はできない。……それでは不満かい?」
「い、いえ!そんな事はありません。」
「悪いねぇ試すような事をして。その人がどれだけ仕事ができるかっていうのは、履歴書や面接だけではどうしても知る事ができないからね。即戦力になってもらいたい中途採用の場合は特に慎重になるんですよ。もちろん私は、小溝さんには期待しているんですよ。」
「はい、ありがとうございます。ご期待に応えられるように全力で頑張りたいと思います。」
「ハハッ、そうかそうか。よし、じゃあこの話はこれで終わりだな。ささ、奥さん、デザートを召し上がってください。ここはデザートも美味しくてね、特に私はこのアイスクリームが大好きなんですよ。溶けない内に、さぁ。」
「は、はい、頂きます。」
帰りのタクシーの中で、智明と菜穂は溜め息をついていた。

それは天野の相手をするのに気疲れしたのと、契約社員とはいえ、とりあえず採用して貰えたことへのホッとした安心感から漏れた溜め息だった。
「悪かったな菜穂、なんだか気苦労させてしまって。」
「ううん、あれくらいどうって事ないわ。それより良かったね、決まって。」
「ああ、とりあえずな。あとは俺の頑張り次第だな。」
「私もできる事があれば何でも協力するから、一緒に頑張ろうね。」
「うん、ありがとう菜穂。」
ようやく見えて来た未来に、久しぶりに夫婦に笑顔が戻った。

しかしまだ2人は知らない。

この先の未来に、さらに過酷な現実が待っている事を。
「どうでした?天野さん。」
「いやぁよくやってくれたよ近藤君。へへ、あれは今までにない程の上物だ。」
智明と菜穂が去った後、2人はタバコを吸いながらニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。
「当たりかハズレかを見極める期間など必要ない。あれ程の女が喰えるなら、すでに当たりクジを引いたも同然だな、ハハハッ!」
「気に入っていただけてなによりです。」
「それが君の仕事だからな、今回はよくやってくれた。それより近藤君、俺はもう今から待ちきれないよ。さっさとあの美味しそうな人妻を味見させてくれ。」
「はい、承知しました。すぐに準備しますので。」

「フフッ、よしっ、しっかり味染みてる。」
キッチンで煮物の味見をしていた菜穂は上機嫌だった。

今日作った筑前煮は、夫である智明の大好物だ。
「子供達には先に食べさせて、私は智明と一緒に食べようかな。」
新しい会社に働きに出だしてからというもの、智明の表情は生き生きしているように見えた。

相変わらず多忙である事には変わりはなかったが、先が見えなかったここ2年程の状況とはやはり違う。

契約社員とは言え、明確な目標を持って働く事に、智明は喜びを感じているのだろう。

そして智明が元気になってくれた事は、当然菜穂にとっても嬉しい事だった。

安定した生活とか収入とか、そういう心配はもちろんしてきたけれど、何よりも智明が元気でいてくれる事が、菜穂にとっては大切な事だったのだ。
仕事に関しても、智明は手応えを感じていると充実した顔で菜穂に話してくれた。

やる事は多いけど、新しい環境には慣れてきたし、やり甲斐のある仕事だよと。

あとは本採用が決まってくれさえすれば万々歳だ。

どうかこのまま採用して貰えますようにと、菜穂は毎日のように祈っていた。
♪〜……♪〜……
子供達を寝かせた菜穂が1人で智明の帰りを待っていると、リビングにある電話の呼び出し音が鳴った。
「はい、小溝でございます。あっ近藤さん……」
電話を掛けてきたのは近藤だった。
「小溝はまだ帰って来てない?」
「はい、もうすぐ帰るってさっきメールはあったんですけど。どうしましょう、折り返し連絡するように伝えましょうか?それとも急用でしたら……」
「いや、いいんだよ。今回は小溝じゃなくて菜穂ちゃんにお願いしたい事があってね。」
「私に……ですか?」
「うん。まぁその前に、どう?菜穂ちゃんは最近元気にしてる?」
「ぇ、あ、はい、お陰様まで。あの、智明の仕事の事で色々と動いていただいて、近藤さんにはもう、なんとお礼を言ったらいいか……本当にありがとうございます。」
「ハハッ、そんな堅い言い方しなくてもいいのに。小溝と俺は同期で長い付き合いだし、それにほら……菜穂ちゃんと俺は良い友達だろ?困った時はお互い様さ。」
「近藤さん……」
「俺も2人の力になれたなら嬉しいよ。」
「ありがとうございます、本当に。」
かつてお付き合いを断ってしまった相手であるにも関わらず、自分達家族のために協力してくれた近藤に、菜穂は心から感謝していた。

今回の件で、菜穂の中の近藤のイメージは大きく変わりつつあった。
智明と知り合う前、菜穂と近藤は付き合う寸前の関係にまでなっていた。

当時容姿端麗な近藤に、若かった菜穂は男性的な魅力を十分に感じていた。

何回か2人で食事に行った事もあったし、このまま近藤さんと付き合ってもいいかもとさえ思っていたのだ。

しかし、ある日2人でとあるバーでお酒を飲んだ後の事だ。近藤は酔った菜穂をホテルに連れ込もうとしたのだ。まだ付き合ってもいないのに。

もちろん大人の男女が2人でお酒を飲めば、そういう流れになるのはあり得る事だ。

だが近藤は強引だった。

菜穂は乗り気ではなく「今日はもう帰らないと」と伝えたにも関わらず、近藤は手を引っ張るようしてホテルの中に連れ込んだ。

そんな近藤の事が菜穂は急に怖くなって、近藤がシャワーを浴びている間にホテルから逃げ出したのだ。

後日近藤は謝ってきたが、その時には菜穂の気持ちは完全に冷めきってしまっていた。

そしてその後近藤には告白されたものの、その時の印象が強く残ってしまっていて、結局菜穂はお付き合いを断ったのだ。

その時、近藤には「どうしてなんだ!?どうして俺じゃ駄目なんだ!?」と強い口調で言われたのを覚えている。

だから正直菜穂は、智明と結婚した自分の事を、近藤は快く思っていないのではないかと考えていた。

しかしそれは自分の思い違いだったみたいだと、菜穂は今感じていた。

過去に恋愛関係では色々あったけれど、智明と近藤さんは良き友達であり、本当は近藤さんは優しくて良い人なんだと。
「それでね菜穂ちゃん、そのお願いなんだけど、実は今度うちの会社で社員旅行があるんだけどさ、それに菜穂ちゃんも参加してほしいんだよね。」
「社員旅行……?」
「うん、うち社員旅行は毎年やってるんだけど、社員の家族も自由に参加していい事になってるんだよ。」
「自由参加、ですか。」
「そ、自由参加なんだけど、実は天野さんが菜穂ちゃんにもぜひ来てほしいって言ってるんだよ。」
「天野部長がですか……?」
「うん。いやね、他にも社内のお偉いさんが沢山来るし、まだ契約社員の小溝はその人たちに夫婦で仲の良い所を見せておいた方がいいんじゃないかって天野さんが。その方が本採用もスムーズに行くだろうって。」
「そ、そうなんですか。」
「まぁ印象の問題なんだけどね。実はお偉いさんの中にはこれ以上中途採用で社員を増やすことをあまり良く思っていない人もいてね。最近は人事部だけで決めれない事も多くなってきてるからさ。分かるでしょ?」
「は、はい。」
「だからぜひ参加してほしいんだよ。」
「分かりました。では智明と一度話してみます。」
「うん、前向きに検討しておいてね。っていうか絶対来た方がいいよ。智明のためにもね。」
「そうですよね、分かりました。近藤さん、ありがとうございます、色々と助言して頂いて。」
「ハハッ、気にしなくていいよ。俺も智明には上手くいってほしいからさ。じゃあ頼むね。」

結局、社員旅行は菜穂も参加する事になった。

あの天野部長と近藤に来て欲しいと言われたのだから、立場上断れる訳がない。
「悪いな、また色々と付き合わせることになっちゃって。」
「ううん。私、智明の仕事の事で何か協力できることがあったら何でもしたいと思ってるし。その方が夫婦二人三脚って感じで良いじゃない?」
「二人三脚か、そうだな。でもあんまり無理させたくないんだよ。菜穂には普段家事とか子供の事とか全部やってもらっているんだから。」
「大丈夫よ。一泊旅行くらいなら子供達は実家に預ける事できるしね。それに社員旅行なんてOL時代以来だし、私出産してからはずっと家にいたから、良い気晴らしにもなるかも。」
菜穂そう言って申し訳なさそうにする智明に笑顔を向けていた。
そしてそれから1ヶ月後、社員旅行当日がやってきた。

近藤が幹事を務める今回の旅行の行き先はとある温泉旅館だった。

移動は3台のバスで。

しかしその日の朝、菜穂は集合場所である事に気付いた。

近藤は社員の家族は自由参加だと言っていたが、周りを見渡しても他の社員で家族を連れ来ているような人は誰もいなかったのだ。

自由参加であるから仕方のない事なのかもしれないが、なんとなく菜穂が想像していた雰囲気とは違っていた。もっと家族連れの人が多くて賑やかな感じの旅行なのかと思っていた。

それに、これも仕方のない事なのだろうが、菜穂以外の女性が殆どいない。

元々女性社員は少ないとは聞いていたが、本当に少ない。菜穂の目で確認できたのは若い女性社員が2人だけ。あとは全員男だ。

だからどうという事でもないのだが、やはりこの社員旅行は、菜穂にとってはあまり居心地の良いものではないようだった。

もちろん、そういう事は覚悟の上だった。

直樹の本採用のためなのだから、今回は旅行を楽しむつもりなんてない。

旅行と言うより接待だと思っていればいいのだと、菜穂は自分に言い聞かせていた。
「やぁ奥さん!来てくれたんですね、嬉しいですよ。」
「あ、天野部長、おはようございます!」
天野に声を掛けられた菜穂は、智明と共にすぐに頭を下げて挨拶をした。
「まぁそんな堅くならずに、旅行ですから、息抜きのつもりで楽しんでいってくださいよ。」
「あ、ありがとうございます。」
天野は実に機嫌良さそうにしていて、菜穂に終始笑顔を見せていた。
「おい近藤君、私と奥さんは同じバスなんだよな?」
「はい、そうです。」
「ハハッ、良かったよ。それなら道中も飽きることなく楽しめそうだ。」
旅行中、この部長の機嫌を損なわないようにするのが私の役目。しっかりやらなくちゃ。

菜穂は天野に笑顔を返しながら改めてそう決心した。
出発時間になり、社員が次々とバスに乗り込んでいく中で、そこでも菜穂は天野に声を掛けられた。
「奥さん、私の隣の席が空いているんだが、どうだね?」
「え?あ、はい!ぜひ。」
「ハハッ、悪いねぇ無理強いをさせてしまったみたいで。社員は皆、私の隣には座りたがらなくてねぇ。いつも寂しい思いをしていたんだよ。」
「いえ、そんな。」
そう言って菜穂がチラっと智明の顔を確認すると、智明は少し心配そうな表情でこちらを見ていた。

でもだからと言って智明が口出ししてくる事はない。

これを断って、天野部長の機嫌が悪くなってしまっては元も子もないのだから。

結局バスの中で菜穂は天野部長と共に前方の席へ、智明は一番後ろの席へと誘導され、座った。
移動中、天野は会社の話やゴルフの話、どうでもいいような自慢話などを隣にいる菜穂に話し続けていた。

そして菜穂は笑顔を作りながら、ずっとその話に付き合っていた。

「そうなんですかぁ!凄いですねぇ!」と返したりして、あまりわざとらしくならないように気を付けながら。

しかし出発してからしばらくすると、調子に乗り始めた天野は、またもセクハラまがいな事を菜穂に聞き始めた。
「ところで奥さんは今何か香水でも付けているのかな?」
「え、香水ですか?いえ、特には。」
「ほぉ、じゃあこれはシャンプーの匂いかな?さっきから奥さんの方から凄く良い匂いがするんで気になってね。」
そう言って、菜穂の髪の毛に鼻を近づけてクンクンと匂いを嗅ぐ天野。

恋人でもない男にこんな変態チックな事をされたら、誰だって不快に感じるはず。

だが、今の菜穂はこの程度の事には怒ってはいられないのだ。

匂いだけではなく、ついには「それにしても奥さんは綺麗な髪をしていますねぇ」と言いながら髪を直接手で触ってきた天野に対しても、菜穂は嫌がる素振りを全く見せなずに我慢していた。

3時間程掛けてようやく旅館に到着したバス。

バスから降りた菜穂は思わずそこで大きな溜め息をついてしまった。

ずっと肩が触れるほどの距離で天野の相手をしていて疲れてしまったのだ。

それにセクハラ行為も酷かった。

髪や手を触られるだけならまだしも、上に置いてあった荷物を取ろうと席から立ち上がった時に、なんと菜穂は天野にお尻を触られたのだ。

一瞬だったけれど天野の手は確かに撫でるようにして菜穂のお尻を触った。

菜穂はさすがにその瞬間「キャッ」と小さな悲鳴を上げてしまったのだが、天野は「おっと失礼」と、あたかも手が偶然当たってしまったかのように言って誤魔化していた。

菜穂はその時の天野のニヤついたイヤらしい目を見て確信した。

この人は性的な目で私を見ていると。

OL時代もセクハラ上司というのはいたけれど、本当に嫌だった。

まだ旅行は始まったばかりだというのに、一気に気が重くなってしまった。

しかしそんな自分に、菜穂は再び言い聞かせる。

ダメよ、このくらいの事は我慢しなくちゃ。今まで智明がしてきた苦労と比べたら、こんな少しのセクハラくらい大したことないわ。我慢我慢!
バスから最後に降りてきた智明は他の社員と楽しそうに話していて、菜穂がセクハラを受けていた事には全く気付いていないようだった。
「菜穂、なんともなかった?」
「う、うん。」
智明に余計な心配はさせたくないと思った菜穂は、笑顔でそう答えた。
「智明は乗り物酔いとかしなかった?一番後ろは結構揺れてたでしょ?」
「あぁ、でも大丈夫だったよ。隣の人と結構話し込んじゃってさ、あっという間だったよ。普段忙しく仕事してるとあんまり話したりしないから、こういう場ってやっぱり貴重だな。」
「……そっか、良かったね。」
智明は新しい職場の人と上手くやっている。

やはり智明にとっても、ここの会社で働いていくのが一番良いのだと、菜穂は感じていた。
一行はその後、旅館近くの施設でいちご狩りやバーベキューなどを開催。

その間は天野からセクハラされることもなく、菜穂も智明と共にそれなりにそのイベントを楽しんでいた。

そして日が暮れる頃には旅館に入り、各自温泉で疲れを癒した後は、浴衣姿で大宴会場へ。

しかし、ここからが問題だった。
「ねぇ智明、お酌に回った方がいいかしら?」
「え?ああ、そうだな。そうした方が良いだろうな。2人で回ろうか。」
「うん。」
近藤が電話で言っていた。今回の採用は人事部だけで決まるとは限らない。お偉いさん達への印象が大事だと。

自分達にとってここは貴重なアピールの場であり、うかうかと料理を楽しんでいる場合じゃないんだ。
「おお、あなたが小溝さんでしたか。噂で聞きましたよ、とても優秀な方だって。こちらこそ宜しく。一緒に頑張っていきましょう。分からない事とかがあったら私にいつでも聞いてくださいね。」
普段しっかり真面目に働いてたお陰か、他の社員からの智明の印象はかなり良いようだった。

中には「君なら本採用間違いないと思うよ。君のような優秀な人材をうちが見す見す逃すとは思えないし。」とまで言ってくれる者までいた。

しかし天野部長やその周辺に居たお偉いさん達の反応は全く違っていた。

その人達は天野同様、最初は智明に全く興味がないような態度で、その視線を菜穂の方ばかりに向けてきたのだ。
「いやぁ、天野さんから聞いてはいたが、まさかここまで美人だとは。」
「本当ですねぇ、まるで女優さんみたいだ。」
「そうでしょう?私も最初は驚いたんだよ。」
ここに座っている人達がそれぞれどんな役職についているのかは分からなかったが、その中でもやはり社長の息子だからなのか、天野が一番態度がデカかった。
「正直、知り合いの芸能事務所の社長さんに紹介したいくらいだよ。」
「おお、それは良いですなぁ。会社のCMにも使って貰うってのいうのはどうですか?」
「本当に考えてもいいかもなぁ。奥さんどうですか?奥さん程の美人なら広告代理店も喜んで使ってくれますよ。」
「そ、そんな、私なんて……」
「ハハッ、謙遜する事はないですよ奥さん。もっと自信を持って、それはある意味あなたの武器なんですから。どんどん使っていかないと。」
「は、はぁ……」
あまりにも突拍子もない話で、さすがに困惑した表情見せる菜穂。
「いやしかし小溝君、よくぞこれ程の美人をものにしたねぇ。君もさぞかし優しくて良い男なんだろうなぁ。」
「い、いえそんな事は……」
「それか余程あっちのテクニックがあるのか、じゃないとただの会社員にこんな美人は落とせないだろう?ハハハッ!」
「ワハハッ、さすが天野部長、ご冗談が上手い!」
天野が繰り出す下品な冗談に回りが汚く笑う。

?ただの会社員?という言葉に、智明と菜穂は沸き上がってきた感情をグッと抑え込んだ。

今は我慢の時だ。
「あ〜そうだそうだ。皆さん、この小溝君なんだが、実は契約社員として今働いてもらっているんですよ。」
「ほぉ、契約社員。という事は近々本採用するという事ですか?」
「えぇ、まぁまだ決まった事ではないんだが。皆さんの意見もぜひ聞きたいと思ってね。」
「我々としては天野部長が、採用したいとおっしゃるのであれば……」
「そうかい?いやでも最近は中途採用で社員が増える事にあまり良い顔をしない人間も多いだろう?」
「確かにうちは現在人手不足という訳ではないですからね。」
「最近はずっとどの部署も中途採用は断ってきましたからねぇ。これ以上増えるのは困ると。」
「うむ、そうなんだよなぁ。という事だから小溝君、残りの契約期間の内にしっかり頑張ってくれたまえよ。私はなるべく君を採用したいと思っている。ここにいる全員に君なら本採用しても申し分ないと思わせてくれ。」
「は、はい!頑張ります!」
「ささ、君も飲みたまえ。」
「ありがとうございます。」
そう言って天野を始めとするお偉いさん達は次々と智明のグラスに酒を注いでいった。

それを断れない智明は、言われるがままに注がれた酒を喉に流し込んでいた。

智明が酒に弱い事を知っている菜穂は、天野達の話に付き合いつつも、アルコールで顔を真っ赤にしている智明を心配そうな表情で見ていた。

「あの、私はもう……」
「何を言ってるんだ、男なのにこの程度の酒が飲めないようじゃ、うちの会社じゃやっていけないよ。」
「は、はぁ……」
「さぁ景気よく一気にいきなさい。大丈夫、この酒はそんなに濃くない、水みたいなもんだ。」
「では、い、頂きます……。」
智明……あんなに無理して大丈夫かな……
酔っ払ったお偉いさんの中の一人に絡まれている智明を見て、菜穂は心配で仕方なかった。

一気飲みの強要なんて、典型的なパワハラだ。

そして一方、菜穂は菜穂で相変わらず天野に掴まってしまっていた。
「ところで、どうでした奥さん、ここの温泉は。なかなか良かったでしょ?」
「はい、とっても。お湯も良かったですし、浴場も綺麗で清潔感がありましたし。」
「そうでしょう。実はここの温泉は私のお気に入りでね、プライペートでもよく来るんですよ。だから私はここの女将さんや仲居さんとも仲が良くてねぇ。」
「そうなんですかぁ。でも本当に良い所ですよね、お料理も美味しいですし。」
「それでね奥さん、ここだけの話なんですけど、実は今夜僕が泊まる部屋には露天風呂が付いているんですよ。」
「お部屋に露天風呂ですか、それは豪華ですね。」
「ハハッ、こんな事社員達に知れたら文句を言われそうですけどね、なんで部長だけって。でもその露天風呂が最高なんですよ。檜風呂なんですけどね、そこから見える景色も最高だし、雰囲気がとても良いんですよ。」
「そうなんですかぁ、良いですね、檜っていうのがまた。」
「そうでしょう。どうです?奥さんも入ってみたいですか?」
「え?私……ですか?入るってあの……」
「露天風呂ですよ。奥さんなら特別に入れてあげますよ。」
「ぇ……でもそんな……」
「大丈夫、覗いたりしませんから、ハハハッ!あの露天風呂は本当におススメですから、遠慮しなくてもいいんですよ。」
「はぁ、でも……」
部長の部屋のお風呂に入りに行くなんてできる訳ないじゃない……と、菜穂は困り果てていた。

だが丁度その時、近くで酒を飲まされ続けていた智明の身体に異変が起きた。
「お、おい君、大丈夫かね?」
その声を聞いた菜穂が智明の方を見る。
「智明っ!?」
驚いた声を出して、慌てて智明のそばに寄る菜穂。

さっきまで酒で真っ赤になっていた智明の顔色が真青になっていたのだ。
「智明大丈夫!?」
「だ、大丈夫だよ……少し気分が悪くなっただけから。」
周囲からは「ほらぁ飲ませすぎるからですよぉ」という声。

しかし智明に酒を飲ませていた当人は「そんなに量は飲ませてないけどなぁ。困るなぁ飲めない体質ならそう言ってくれないと。」と全く悪びれた様子もなくて言っていた。

菜穂はそれを聞いて内心怒っていた。

……無理矢理飲ませてたくせに……
「す、すみません。少しお手洗いに行ってきます。」
そう言って立とうとした智明だったが、足元がフラつきまともに歩けない。

言葉こそしっかりしているものの、智明はほぼ泥酔状態だった。
「智明、私に掴まって。」
「ごめん菜穂……」
「ううん、歩ける?」
菜穂の身体に寄り掛かるようにする智明。

しかし女性の菜穂1人ではフラつく智明を連れて行くのは厳しい。

するとそれに気付いたあの男が近付いてきた。
「菜穂ちゃん、俺も手伝うよ。」
「あ、近藤さん……すみません。どうもありがとうございます。」
「いいんだよ。おい小溝、俺の肩に掴まれ。」
そう言って近藤は智明をトイレへ連れて行った。

智明はトイレで嘔吐していた。やはり智明の身体が摂取できるアルコールの量を大幅に超えていたらしい。
「智明……大丈夫?」
吐き出したものの、すでにアルコールがかなり回ってしまったのか、返事もできない程グッタリしている智明。

そんな智明の背中を菜穂は心配そうに擦っていた。
「あの人毎回新人に一気飲みさせるからなぁ、困ったもんだよ。おい小溝、もう全部出したか?」
そう言って再び智明の身体を起こそうとする近藤。
「じゃあ菜穂ちゃん、俺が小溝を部屋に連れて行くから。たぶん寝たらそのまま朝まで起きないと思うし。」
「そうですよね、じゃあ私も一緒に」
「いや、ここは俺に任せて、菜穂ちゃんは天野部長の所に戻った方がいいよ。あと、お偉いさん達にも一応謝っておいた方がいいかもね。」
「ぇ……あ、はい……。」
「それと菜穂ちゃん、1つだけ忠告しておくよ。天野部長やその周辺の人達はちょっとした事で不機嫌になりやすいタイプの人が多いから、あの人達の言う事はちゃんと聞いて、少しくらい嫌な事があっても逆らわない方がいいよ。もし機嫌を損なうような事になったら、本採用の話は確実になくなると思いな。分かるよね?」
「……は、はい……分かりました。」
「よし、じゃあ頑張ってな。これも智明のためだ。」
「はい。近藤さん、本当にありがとうございます。」
「いいんだよ、ほらもう戻りな。あんまり待たすと天野部長の機嫌が悪くなっちゃうよ。」
「はい。では智明を宜しくお願いします。」
そう言って菜穂は近藤の優しさに感謝しつつ、宴会場へと戻っていった。

しかしそんな菜穂の背中を眺めながら、近藤は表情を変えてニヤっと怪しい笑みを浮かべていた。
「フッ、まぁ今夜は大変だと思うが、精々頑張れよ菜穂ちゃん。」

「あの……皆様にご迷惑を掛けてしまい、大変申し訳ございませんでした。」
菜穂は天野部長とその周囲にいる者達に、深く頭を下げた。
「まったく困ったもんだ、あなたの旦那はあの歳で自分が飲める酒の量も知らないんだな。あれでは先が思いやられる。」
「まぁまぁいいじゃないですか、奥さんがこれだけ謝っているんだから。」
菜穂を擁護するようにそう言って笑顔を見せる天野。
「では奥さん、小溝君の代わりに私達に付き合ってくれるかい?」
「は、はい。」
「奥さんは酒はいける口なのかね?」
「いえ、私もそんなには……。」
「でも全く飲めない訳じゃないのでしょう?」
「……はい。」
「大丈夫ですよ、私は無理はさせませんから。」
「ありがとうございます。頂きます。」
天野に注がれたお酒に口を付ける菜穂。
「いやぁやはり美人だとお酒を飲んでいる姿も絵になりますなぁ。」
「本当だ、それこそ酒のCMを見ているようだ。」
「それに浴衣姿もよく似合う。なんというか、実に色っぽいですなぁ、へへへ。」
天野を始めとする男達からの視線に、菜穂は恥ずかしそうに顔を赤くした。
「奥さん、学生時代は随分とモテたんじゃないですか?こんな美人、周りの男が放っておく訳がないからなぁ。」
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