えちえち体験談

20160109-ラブコメディ・ラプ..

2017/02/27 11:50カテゴリ : ジャンル未設定



 その夜は、雪が降っていた。私中根伸一は、バス停に向かってオーバーのフードを被り細い雪道を路地を歩いていた。ふと、どこからともなく匂ってくる香水に立ち止まる。すると、前から歩いて来た女性に気づいた。道幅は雪で狭くなっていてすれ違うことが出来ない。仕方なく、私は手前の通りまで引き返した。

「すみませんね」
 私は京都風のイントネーションに気づき、フードを少し上げて女性を見る。そこには、美しい女がいた。長い髪を雪に濡らし、胸がぱっくりと裂けている洋服を着て、見るからに寒そうに見えた。
「いいえ、お互い様ですから。気を付けてね」
 私は柄にもなくそんなことを言った。
 女が歩い行った方をじっと見ると、バーの看板が掛かっている店に入った。いつか行って見たい、そう思った。

 私は、それからバスに乗り家に向かった。バスの中で、妻の言葉を思い出していた。もう、あなたといるのが、苦痛なの。私は、そのあと何も言えなかった。その前に言った言葉は全て消え去り、その言葉だけが残った。私は、それで説得をあきらめた。妻が別れたい理由、それは私に無関心だと言う。確かに、妻のことは空気みたいなものだと思っていて、もはや愛してるとか、抱きたいとかの感情は消え去っていた。その気持ちを隠そうともせずに、家政婦のように扱っていた報いが、今下されようとしているだ。
 これから始まるこの話し合いに勝者などいない。私は重い気持ちで 玄関を開けた。妻は、すでに居間に座って待っていた。離婚届に妻の名前を書いて。私は、最後の話を切り出した。
「それで、離婚する意思に変わりはないんだね?」
「ええ、お願いします」
「そうか、分かった。子供は、君の言った通り私が育てる」
「すみません」
「財産は本当に良いのか? 良かったら半分だそうか?」
 深いため息を付いて彼女は言った。
「あなた、あなたのそう言う所が大嫌いなの。浮気をしたのは私なんだから、もう変な気を使わないで」
「……」

 私は、まだ未練があるとでも言うのか。少しでも良く思われたい、出来たら考え直して貰いたい。その気持ちから出た言葉だろう。
 それは愛しているからではなく、世間体が悪いからだ。それに、今から10才の我が子を一人で育てなければならないと言う辛さからだった。そんな私の利己的な考え方はもはや妻に伝わっていて、もう隠す必要などなかった。
 私は、離婚届に名前を書いて、妻だったものに渡した。彼女は、それじゃありがとうねと言って、オーバーをはおって出て行った。私は、見送りすることもできないで、拳を握りしめて玄関の扉が閉まる音を聞いた。二階から、太郎のすすり泣く声が響いていたが、かける言葉も見つからずに、ただその声を聞いていた。ごめん、太郎と言って。



 翌日から離婚の影響は出た。寒い朝に私中根伸一は朝1時間ほど早く起き、味噌汁を作り納豆ときざんだネギを混ぜてご飯に乗せた。息子の太郎はそれを美味そうに食べてくれた。学校は給食で助かった。全然気に病む必要はない。ただ、いつもより1時間早く起きるだけだ。
 夕飯は用意する暇がなかったのでコンビニ弁当を買ってくれと千円渡した。

 息子は何も言わないが辛いはずだ。どうして泣いて止めなかったのか。もしかして既に会話がなかったのではないのかと思うが、なにを聞いても話してはくれなかった。妻の悪口になると思ったのだろうが、この子が不憫でならない。
 だが、何れにしても、もうサイは投げられたのだ。後戻りは出来ない。私は、忘れ物はないかと太郎に確認して家を出た。誰もいない部屋に
カギの音が妙に響いた。

 私中根伸一は重い足取りで○×出版社の編集室に入って、オーバーを脱いでいると事務の田所茜が挨拶をする。我が社では彼女が朝一番早く出社するのだ。
「おはようございます、中根編集長」
「ああ、田所君おはよう」
「あれ、今日はいつも早いねって言ってくれないんですね。体調が悪いとか?」
 そう言って田所茜は私の額に手を当てた。
「君。人が見たら勘違いするじゃないか」
 ちょっと苛立って言った。
「私は構わないですよ、いつでも、ど・う・ぞ。うふ」
 そう言って彼女は萎れた花の花瓶を持って給湯室へ行った。
 何が構わないんだ。こっちは大迷惑なのに。しかし、浮気を気にする必要がないことにようやく気づく、もう独身なのだから。ちょっと尻でも撫でてみようか。そんな馬鹿なことを考えていた。

「中根編集長、おはようございます」
 若手の二瓶俊平が疲れた顔で出社して来た。マフラーを取るとワイシャツの襟が汚れていた。きっと、現場から直接来たのだろう。
「ああ、おはよう二瓶君。それで先生の原稿は取れたかい?」
「はい、ようやく輪転機に間に合いました。良かったです」
 そう言って赤い目を擦った。
「無理するなよ。代休取るか、会議室で休みたまえ」
「良いんですか? それじゃ、ちょっとだけ会議室で」
 そう言って二瓶俊平は寝に行った。一見、彼の心配をしている心優しい上司に見えるだろうが、残念ながらそれは違う。無理させて、もし倒れられたら余計に面倒になるという、利己的な考えからだ。

 時計は9時を回って皆出社してきた。来ていないのは直接原稿を取り行っている者だけだ。
 私中根伸一はさっそく届け出を出した。離婚、扶養家族息子1人、と。
 それを受け取った田所茜が大声を出す。
「えーーーー!」
 皆、何事が起きたと緊張した。
「中根編集長、離婚したんですね!」
 これで全員に知られてしまった。仕方なくお道化てみせた。
「そうだよ。もう私は独身さ。これで浮気も出来る。あ、浮気じゃなくなるか」
 もうやけっぱちだ。清々した。
 その時、田所茜が抱き付いて来た。驚いた私はイスの上で身を固くした。
「中根編集長、好き」
 そう言って田所茜はキスをして来た。

 なんで私が田所君にこうも好かれているかは分からないが、私はやけっぱちついでにそのキスに応えた。
 その後、私が常務に大目玉を食らったのは、良い思い出だ。

 その晩、9時に家に帰った。ごみ箱には、インスタントの焼きそばの容器が捨てられていた。私は、息子の太郎にひもじい思いをさせてごめんと手を合わせた。
 明日はちゃんと晩飯も作っておく……。



 次の日、私中根伸一は朝飯にパンを焼いてやり、夕食用にシチューを作っておいた。やればできるのだ、私も。この調子で太郎一緒に生きていけると思った。太郎は、元気にパンを食べて行ってきますと言って、小学校へ走っていった。私は、息子を見送ると、バス停へ向かって急ぎ足で歩いた。
 私は、会社に着くとバリバリ仕事をした。売れっ子女流小説家に担当者と一緒に挨拶に行き何とか新作のページをお願いしたり、古参の小説家にはお土産のウイスキーを持って行ってヨイショしたり、穴の開いたページに何とかコラムを書いて貰ったり、新人編集者と飲みに行って悩みを聞いてあげたり、とにかく忙しかった。

 その新人編集者と飲み行ったのが、あの京都弁の女の店だった。
 私は名刺を出してこれからお世話になるね、と言った。
「それで、あなたのお名前は?」
「夕子です。よろしくね、中根伸一さん」
「源氏名じゃなくて本名は?」
「本名ですよ。伸一さん。上の名前は三上。三上夕子です。ところで、この前そこの所で鉢合わせしましたよね?」
「良く分かったね。あの時はどうも。しかし、あの時は驚いたよ。雪女が出たって思ったんだ。いやー、それ位美しかったんだ、君は。冗談はさて置き」
 ここで夕子さんは、お約束でガクッと来た。
「もう、意地悪」
「ごめんごめん。で、これは新人の向井公人君。公人って書いてキミヒトって呼ぶんだ。さあ、挨拶しろ。向井君」
「はじめまして向井公人です。よろしくお願いします」
「なあ向井君、可愛いだろ彼女?」
「ええ、本当に。そして京都弁がまた良い!」
「お、向井君。君とは仲良くやれそうだ。まあ、一杯」
「ごちそうさまです」

 掴(つか)みはOKだ。それとはなしにアプローチして、後は寄せて入れるだけ……。
 遺憾いかん、ゴルフに掛けたエッチな19番ホールの話はご法度だ。ゴルフ嫌いの某先生に聞かれたら原稿を落としかねない。

 それにしても彼女、三上夕子は良い。あのいつも笑っているような顔、美しいプロポーション、そしてあの京都弁のイントネーション。
 何故こんな地方にいるのかは分からないが、今まで見た嬢の中で一番心惹かれた女性だ。私が抱ける分けはないが、この店に居る時は彼女に忠誠を誓おう。



 今日は久しぶりの休日オフ。私中根伸一は息子の太郎を外に連れ出して札幌大通へ来た。けれど、どこへ行っても人ひとひと。
 閉口して、早々に太郎が行きたがっていたカフェに入った。パンケーキのお店だと太郎に聞いていたが、出てきた物はホットケーキだった。
「なに、これはホットケーキじゃない。これだったら電気プレートで焼いてあげたのに」
「まあ一口食べてみなよ、父さん」
 太郎はニコニコしてる。
 初めてだよな、二人で出歩くの。私もちょっとはしゃいでいる。やっぱ親子って良いよな、と幸せを噛みしめた。
「どれどれ、ん! 美味しい! ブルーベリージャムとバニラアイスが口の中でホットケーキとダンスしてるよ!」
 私はそれ以上話すのを止めて、パンケーキとやらをひたすら口に運んだ。
「父さんはやっぱり元作家の卵だね」
 ボソッ、と太郎が呟いた。それをしっかり聞いた私は、急に真面目な顔を作り呟き返した。
「ああ、卵のまま終わったけどね。夢は太郎、お前に託した」

 ここで太郎は急に涙腺が壊れて、涙が止まらなくなった。
「おい、どうしたんだよ?」
 私そう言って太郎の肩を抱いた。余計に泣き出した。
 私は心配そうに見にきた店員さんに
「すまん。俺が感動させてしまって。このまま泣かせてよ」
 と言ったが、太郎が泣き笑いしながらこう言った。
「違うよ、父さん。僕は父さんにしっかり見守られていたことを知ってうれしかったんだ。父さんが僕に夢を託したことに感動したんじゃないからね。やっぱ作家を諦めて正解だったね。ふふふふ」

 なんだ、そのことか。
 私は時折太郎の書いた小説を読ませて貰っているが、今でも私の文章より断然面白い。しかし作家になるには今以上の研鑽(けんさん)を積まなくちゃいけない。だが太郎は必ず成功すると私は信じている。頑張れ太郎!

 二人きりの家族になってより深い絆で結ばれたと、確かに感じた。

 その後、地下街で本屋を物色したり、ラーメン横丁でラーメンをすすったり、○×出版の編集室に遊びに行ったりして休日を過ごした。
 今日は特別良い日だった。そう日記には書いて置こう。もっとも今までそんな物は書いたことがないが……。

 太郎は、これ以降、掃除や洗濯をすすんでやってくれるようになった。だが、飯は私の味が気に入ったのか、文句も言わずもりもり食べてくれる。太郎には苦労を掛けるが、前向きに生きていこうと話し合った。私は、息子のためにもいい父親であろうと誓った。



 月曜日、私中根伸一は朝会社に出ると、電話があっちこっちで鳴っていた。聞き耳を立てると、どうやら事件が起こったらしい。今、二瓶君から盗作と言う言葉を確かに聞いた。私は、気を落ち着かせて電話を置くのを待った。
「……はい、はい、どうもすみませんでした。失礼します」
 二瓶君は、やっとイスに腰を降ろして、ため息をついた。
「二瓶君。それでどの先生が盗作したの?」
「あ、編集長。武藤さんです」
「二瓶君、君は知っていたの?」
「いいえ中根編集長、全然。僕は再三注意してたんですけどね。武藤さん、あの作家は平気で嘘を付くから。それも、今売れている早乙女先生のをパクるなんて」
「なに! それは深刻だな。とにかく、直ぐ出版物を回収して。私は先方に謝りに行くから」
「はい」

 某所のマンションのエントランスに着いて先生を呼び出すと、お手伝いさんが中に入れてくれた。女流作家早乙女優先生は、私が行くと仕事部屋から出て来てソファーに座ってタバコを吹かした。
 私は頭を床に擦りつけて謝った。
「早乙女先生、この度は大変済みませんでした。出版した物は全部回収させますから、どうか怒りをお納めください」
 彼女は不敵に笑って言った。
「中根さん、誰がいつ怒ったんですか? 全く人聞きの悪い」
 私は更に低姿勢で言った。
「先ほども言いましたが出版物は全て回収しますので、裁判はしないで下さい。どうか、おねがいします」
「分かったわ。でも、その代わり……」
 私は嫌な予感がした。でも会社の為だ。そう思って話を伺った。
「この前一緒に連れて来た二瓶君。彼を私の専属にして。その代り私は○×出版以外には書かないわ」
「本当ですか! ありがとうございます。二瓶もきっと喜ぶでしょう」
 二瓶の気持ちは分からないが、もし説得に失敗したら、私のクビは確実だろうし、下手をしたら会社も債務超過で危ないかもしれない。冗談では、済まされないのだ。
 私は、帰りの地下鉄の中で、なんとしても二瓶君に承諾してもらおうと、策を練ろうとした。だが、結局何もいい案が出てこなかった。ここは正直に話すしかない。私は、パワハラ覚悟で二瓶君を説得しようと決意して、会社へ急いだ。

 ○×出版社の編集室に戻り、私中根伸一は二瓶俊平を会議室に呼び出した。
「二瓶君」
「はい、中根編集長」
「君、早乙女先生のことどう思う?」
 さっそく聞いて見た。
「早乙女先生ですか。先生はあのお歳で自分の世界を確立している。素晴らしい才能ですよ」
 そこを力説されても。
「君、恋人はいる?」
「今はいませんけど、それが何か?」
 やはり、まだまだ若手。回りくどい言い方では、分かってくれなかった。私は、あきらめてズバリ、本題を切り出した。
「今度、早乙女先生と熱海に旅行して貰いんたが、良いかな?」
「……それって、先生と寝れって言ってるんですか?」
「まあ、平たく言えばそうだが。で、どうだい?」
 私は軽い口調で言ったが、内心は祈るような気持ちだった。
 すると、急に目を輝かせ二瓶俊平は言った。
「行きます! 行きます! ぜひ、私に行かせてください」

 知らなかった。二瓶君が年上好みだったなんて。でもあの大きな胸は私にとってもご馳走だが。
 私は二瓶俊平26才と早乙女優39才、二人の幸せを祈った。とにかく、これで会社が訴えられると言うことは、回避できた。ありがとう、二瓶君。もしこれで賞金付きの社長賞を取っても、二瓶君に譲ることにした。



 盗作騒ぎも落ち着いた頃、ようやく雪は溶けてツクシンボや福寿草が側溝を彩り出した。私は、バスの中から春訪れを感じて、もうそろそろオーバーを脱ごうと決めた。
 ○×出版社の編集室に入ると、田所茜の様子がやはりおかしい。いつもは私中根伸一が出社すると直ぐにまとわり付くのに、最近は「おはよう」と言っても生返事だ。部下が、なにかで悩んでいるのだ。私は、面倒だが聞いてみることにした。
「ねえ、田所君」
「はい、何ですか中根編集長」
 やっぱり声が沈んでいる。
「君、何かあったの? 最近元気ないから」
「分かります?」
 そう言って田所茜はため息を付いた。

 話を聞いてみると、田舎の両親に見合いを勧められて悩んでいるそうだ。
「よかったじゃない。良い人だったら結婚するべきだよ。縁は大切にしないとね」
 そう言うと田所茜は泣き出した。
「ひっく、ひっく、やっぱり中根編集長好きな人がいるんですね?」
「いや、そりゃあいるけど美しすぎて高嶺の花なんだ。そう、芸能人を見る様なもんさ」
「だったら私に応えて。私の事好きでしょう?」
「そりゃ好きだけど君は部下、私はその上司。中々付き合うのは考えちゃうよね。
 それに私は今年で44、君はまだ24才だ。20才の年の差は大きいよ。付き合うのは、とてもじゃないけど無理だよ」
 そう言うと田所茜はがっくりと肩を落とした。
「やっぱりそう言うと思った」
 それ以上何も言わずに給湯室にこもってしまった。

 きっと見合い相手がしっくり来ないのだろう。
 彼女に誰か良い人はいないかと新人の向井公人に聞いてみた。
「向井君。君、田所君に誰か良い人いない?」
「さあ、僕彼女のことは知りません。それに僕は夕子さんに首ったけで」
「そう……」
 ちくしょうめ、俺が最初に三上夕子を見つけたんだよ、そう言いたいのをグッと堪えた。
 これは早い所告白して振られて貰うしかない。
「所で三上夕子は君のことを色々聞いてたぜ。脈有りなんじゃない?」
「本当ですか! イヤー参ったなー、どうしよう。中根編集長、ありがとうございます」
 そう言って向井君は元気に次の作家の原稿を取りに行った。
 ふっ、馬鹿め。



 しまった……。しまった……。人生最大の不覚。三上夕子が向井公人と出来てしまった。私中根伸一のアドバイスで二人は仲良くなったのだ。まさか、あんな若造がタイプだなんて思わなかった。この前、店に行って見ると夕子さんと手を握って話していたから、きっともうそう言う関係になってしまったんだ。ああ、私がキューピットになったのか。そう思い、落ち込んでいた。

「中根編集長。元気ないですね。何かあったんですか?」
 思わず田所茜に全部話してしまった。
「ぶはははは。自業自得ですよ、中根編集長。だから、私が老後の面倒を見ますから」
「……田所君」
 老後の面倒。それが決め手だった。
 私は給湯室で田所茜と本当のキスをした。そう、今までは冗談のキス。

 私は田所茜とエッチする前に、まず息子太郎に会わせた。太郎はもう掃除洗濯などの家事をしなくて良いので大喜び。そして田所茜はそんな太郎を見て「まあ、可愛い」と相性OK。私はほっと胸を撫で下ろすのだった。

 極上のホテルのベッドでエッチをした後、田所茜に腕枕をしながら。
「君って案外感度が良かったんだね」
「いや?」
「とんでもない。良かったよ、本当」
「うれしい。ねえ、今度太郎ちゃんとうちの実家に来てよ。おねがい」
「分かった。でも不安だなー。歳だし……」
「何言ってんのよ。私だって太郎君の母親になるって決める時は随分悩んだわ。でもそれは取り越し苦労だって分かったの。だって縁って言うのは自分で探す物じゃなくて、自然に出来るの物なのよ。そして、その縁からは逃れられないの。死ぬまで」
 そして私の腕はしっかりロックされた。もう逃れられない、縁によって。(でも、夫婦は縁は離婚したら消えるけど、それは言わないで置こう)

 私中根伸一と田所茜はその時から間もなく結婚した。年の差20。太郎の妹か弟がもう直ぐ生まれる予定。
 女流作家早乙女優と若手の二瓶俊平も結婚した。年の差13。
 三上夕子は新人の向井公人と結婚した。向井君は本当に幸せそうで、ちょっとやけた。

 皆幸せになって良かった。
 今日も私は太鼓持ちをしながら編集と言う仕事をさせて貰っている。私は元作家の卵だったが、たくさんの本物の作家を育てられるこの仕事に生きがいを感じてる。
 作家の卵たちに幸多からんことを……。

(終わり)

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